まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

本村凌二編著「ローマ帝国と地中海文明を歩く」講談社

本当は4月に読んだ本で、4月のお薦めに書くはずだったのですが感想を書き忘れて5月になってしまいました。

東大名誉教授の本村先生と、本村ゼミ関係者を中心とする執筆者からなる本がでました。こう言う構成だと、てっきり難しい論文集になるのかと思いきや、一般 の読書人向けのかなりライトな読み物に仕上がっていました。とはいえ、ただの一般向けローマ史本とはまた違う切り口で、最近の研究動向を反映した内容と なっています。

扱われているのはローマ帝国の支配領域であった場所から、地中海世界の中でも重要そうな場所、興味深い場所です。必ずしもローマ史に限った話ではないと言 うことは、アテネオリンピアの話で結構ギリシアの話が扱われているところにもあらわれています。バビロンまで扱われているので(一時的にあの界隈もロー マ帝国領になったことはありますが)、古代世界のかなりの場所が範囲として扱われています。

執筆者の数は非常に多く、それぞれの著者によって文章の雰囲気は違います。全般的にはかなりきまじめな印象を受ける文章が多いのですが、なかには少々くだ けた調子のものもあったり(アテネのところはそんなかんじでした)、なかなか味わい深い文章もあったり(キプロスのところでアフロディテについての話をし ている所)、研究者の書いた本に不慣れな人でも面白く読めるのではないでしょうか。

私のメインサイトが(最近更新が滞っているとはいえ)マケドニアのあたりを扱っている関係上興味深く読んだのがサモトラケの章です。そういう見方もあるん だなとおもうところ、最近はそこまで研究が進んでいるのかというところ、色々と興味深い内容がありました。サモトラケ関係の内容を扱った論文をそういえば Howe&Reames(eds.) Macedonian Legacies California,2009で見かけたような気がするので、一寸勉強し直してみようかなと思います。

本書は地中海世界およびローマ帝国に関係する場所を、その場所の歴史的背景を詳しく説明しており、学術的観光案内書のようなものを作りたいという先生の意 図はかなり達成されているんじゃないでしょうか。欲を言えば、写真は結構載っているとは思いますが、学術的“観光案内書”ということであれば、もっと写真 が欲しかったということと、せっかく写真を多く載せるのであればカラー写真の頁も作って欲しかった、というところですね。でも、この本自体は十分面白いと 思います。