まずはこの辺は読んでみよう

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小田中直樹(編集)、帆刈浩之(編集)「世界史/いま、ここから」山川出版社

昨今、世界史の概説的な本、「世界史」を題材とした本がいろいろなところから出版されています。様々な経歴の持ち主により書かれたそれらの本のなかには、非専門の読書好きな人の手で書かれたものもあります。ただ、そういう本を見ていると、面白いこと考えるなあと思うところもある一方、最近の学説に関心を持って書いているけれど少々それに無批判に寄りかかりすぎなもの、旧態依然としたものまで、いろいろです。

そういう状況のため、世界史の通史的な本で面白いものというと、なかなか勧めにくく、かといって教科書を読めというのも、教科書の場合、可能な限り正確に書くことが最優先であって、面白い「読み物」として書かれているわけではなく、世間一般の人にとっては少々厳しいようにも思います。内容の質の点で信用でき、なおかつ文章が平明なものがないかと思っていた時に出会ったのが本書です。

本書では時代の区分の表現は少々独特なものを用いています。まず、いわゆる「古代」にあたる時代については「西アジアの時代」というタイトルでまとめています。各地域で古代文明が形成され、西アジアが優越していた時代、ということでこのタイトルがつき、「中世」にあたる時代は諸文明が確立してそのなかで東アジアが優越してた時代として「東アジアの時代」とタイトルをつけていたりします。それ以降は「世界の一体化の時代」「欧米の時代」ときて、現代にあたる部分は「破局の時代」と銘打ちつつ、世界の再編が進んでいる時代としてあつかっています。

そして、本書は「いま、ここから」というサブタイトルがつけられているように、いまを生きる我々にとり重要そうな事柄を切り口として、時代と場所が異なる世界の歴史を見ていこうとしています。そこでとりあげられるものは、人・モノ・情報の移動、宗教と信仰、科学技術と環境という3つに関係する事柄に重点が置かれています。ギリシア史であれば、ギリシア人の広範な地域への拡散や交易の拡大、ギリシア文化の伝播と外来文化の様々な受容といったことが触れられていますし、清朝時代の中国の人口増加と内陸部開発、そして環境の改変といったことも言及があります。中国医学と西洋医学に関する話題で「ワンス・アポン・ア・タイム」の黄飛鴻までとりあげられたのは驚きましたが。(ギリシアのところでグローカルという言葉を見たとき、この本を思い出しました

「いま、ここ」にある事柄について考えるにあたり、上記3つのテーマ設定から世界史を見るということで、扱われる事項についてはかなり取捨選択がなされているようです。そのため、世界史の概説、通史によくある、固有名詞の羅列は避けられていると思います。また、昨今、一部の世界史関係の書籍でみられる妙に攻撃的な行論となっていないところも良いと思います。

中央ユーラシアや東南アジア・インド洋などの方にもう少し重点を置く分け方でよかったのではないかと思ったりしますが、非常に平明な文章で、かなり興味深く高水準な内容が書かれている本であり、世界史について通史的な本として多くの人にすすめたい一冊です。