まずはこの辺は読んでみよう

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本村凌二(編著)「ラテン語碑文で楽しむ古代ローマ」研究社

古代ローマ史、古代地中海世界史を研究する上で、彼らが残した碑文はひじょうに重要な史料となっています。現在発見されている碑文は彼らが残した物のごく 一部にすぎないようですが、現在もなお発見が続く様々な碑文を解読していくことにより、新たな知見がもたらされ、研究は深化しています。

多くの場合、様々な碑文は一つの史実を構築していく上での材料として使われているように思えますが、そのような碑文を通じて古代ローマの歴史や世界について眺めてみようというのが本書です。

本書は第1部と第2部からなり、第1部では1章から3章でローマの歴史の様々な局面に関わる碑文の訳をとりあげながら、ローマができてから西ローマ帝国が 滅亡するまでの時代をあつかい、4章から6章ではテーマ別の構成となり、ローマ人の日常生活から戦争と兵士、剣闘士競技、ローマの支配下におかれた地域に ついて、碑文を取り上げてながら説明していきます。

扱われている碑文は皇帝立ちが建造した記念碑や建造物に刻まれている物から、一兵士の墓やポンペイの落書き、古代エジプトの遺跡に刻まれた落書きのような 碑文まで、いろいろなものがあります。そこに登場する人物も、一般市民から元老院議員、皇帝の一族などなど幅広く、古代ローマの歴史の表舞台から目立たぬ 場まで、碑文をよみながら見ていくことができるような作りになっています。

碑文という生の史料にふれながら、それに対して詳しく解説を加えていく(論文ではなく一般書なので、その辺は多少加減しているような気もしますが)、それ によって古代ローマの歴史および、古代ローマ世界の様子について楽しめるようになっています。ローマの歴史についての本は多数ありますが、書物(歴史書 等々)をもとに書かれるのが普通です。そのような中、ローマ人が残した数多くの碑文を前面に押し出してローマ史を語る本はなかなかないと思います。

また、碑文がのこされている・のこされていないという状況からも色々と考えるところがあると言うことも、ディオクレティアヌスキリスト教徒迫害についての史料状況から示されていきます。

ほかにもトイトブルクの戦いにかんする碑文等々、興味深い物がありますし、「テルマエ・ロマエ」で話題のローマ風呂についてもけっこうでてきます。ローマ史にちょっとでも興味がある人にはお薦めです。