まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ウラジーミル・ナボコフ「カメラ・オブスクーラ」光文社(古典新訳文庫)

裕福でお人好しな美術評論家クレッチマー。彼は何不自由ない暮らしを送っていましたが、映画館のくらやみの中でふと目にとまった16歳の少女マグダに惚れ てしまいます。一方マグダはかなり劣悪な家庭環境で育ち、映画女優への道を目指しながら、映画館の案内などの仕事をしている少女です。クレッチマーの一目 惚れと、それに気づいたマグダの誘惑、そしてマグダとの生活の始まりと、それに伴うクレッチマーの家庭崩壊と言った具合に話が進んでいきます。

さらに、マグダは元恋人で漫画家のホーンとばったり再会し、それからはクレッチマーとつきあいつつホーンとよりを戻していったあげく、途中からはクレッチ マーからとれる物はどんどん取ってしまおうという方向へ向かっていきます。マグダに裏切られていることに気づかぬクレッチマーは家庭崩壊、さらに自らも交 通事故で失明し、マグダとホーンに軟禁された状態で暮らす羽目に。そして何とかそこからでた後、銃を持って出ていった彼を待ち受ける運命は何ともやりきれ ぬ物を感じさせます。

「ロリータ」の原型となったともいわれるこの作品ですが、ロリータと比べるとマグダのほうが悪女っぽく感じました(「ロリータ」読んだのがかなり昔なので 記憶が怪しいですが)。あと、ハンバートと比べるとクレッチマーは凡人というか。これが原型で、より磨きをかけ、掘り下げていった物が「ロリータ」という 関係になるでしょうか。

マグダはモデルや女優といった仕事に強い関心を抱き、クレッチマーに接近したのも彼が映画とかそのような世界に接点がありそうだったと言うこともあると思 います。彼女の生い立ちや彼女を取り巻く状況をみていると、マグダが生きてきた世界はまさに数年前に登場した「下流社会」そのものという感じです。

そこから抜け出す手段として、多くの人に見られるモデルや女優への道を選び、クレッチマーの家庭を崩壊させつつ、映画への出演も果たすなどすこしずつ自分 の夢の実現に向かっていきます。しかし試写会で己の才能のなさという現実を突きつけられる羽目になり、それ以後ホーンと一緒にクレッチマーから搾り取れる だけ搾り、最後は取る物をとったら出て行ってしまうわけですが、果たしてこの後のマグダはどうなるのか気になります。