まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

クリストファー・プリースト(古沢嘉通訳)「双生児」早川書房

(注意)今回は内容に色々と触れるところが多いです。ネタバレをいやがる方は見ないで下さい。

歴史ノンフィクション作家スチュアート・グラットンのサイン会に、アンジェラ・チッパートンという女性がある回想録を携えてやってきます。それは第二次世 界大戦で活躍した空軍大尉J.L.ソウヤーのものでした。チャーチル回顧録においてソウヤーについての疑義が書かれていたことから彼について興味を持った グラットンは、その回想録を読み始め、そこからソウヤーの物語が始まります。

物語はソウヤーの体験した出来事の回想録として書かれたパートと、グラットンの生きている時代のパートからなっていますが、チャーチルルドルフ・ヘスと いった歴史上の人物も次々と登場します。ルドルフ・ヘスというと、大戦中に突然イギリスへと飛来し、戦後も長きにわたり刑務所で生きていたという人物です が、この物語の中では、ヘスはかなり重要な役所をになっています。

本書を読み始めて、すぐに違和感を感じ始める人が多いと思います。我々が知っている「歴史」とはちょっとちがう戦争と戦後の世界が書かれていることに気が つくでしょう。我々が知っている歴史と、それと違う歴史、二つの歴史が語られていきます。片方は「正史」、もう片方は「並行世界」、そのような位置づけの ようです。そしてそれぞれの世界で彼らがどのように生きてきたのかが描かれていきます。

しかし事は単純ではなく、語り手が意識を失い、記憶が飛んだり、時系列がいろいろとひっくり返ったり、片方については本当のところ、途中で死んでるんじゃ ないかとかもうそうなんじゃないかと思ってしまう部分もあったり、パラレルワールドというにはねじれにねじれた世界が描かれているような気がします。色々 なところに歴史の分岐点はある、と言うことでしょうか。非常に読みやすいけれど、どのような物語なのかをきちんとつかみ取るのは難しい本ではないかとおも います。