まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

デイヴィッド・ベニオフ(田口俊樹訳)「卵をめぐる祖父の戦争」早川書房

ドイツ軍による包囲まっただ中のレニングラードに暮らしていた著者の祖父レフは、略奪罪に問われ、秘密警察に捕まった事がきっかけで秘密警察の大佐から奇 妙な命令を受けることになりました。それは、結婚式のケーキを焼くために卵1ダースが必要になるからそれを調達してこい、というものでした。当時、ドイツ 軍の包囲を受ける中で日々の食糧にも事欠くレニングラードでそのようなものが手に入るとはとうてい思えないながらも、不条理な指令に従わねばならなくなっ たレフと、彼と一緒にその指令を果たすべく命じられた脱走兵コーリャの二人が繰り広げる冒険もの、といった感じの作品です。この二人ですが、内気な、とい うより自分にあまり自信がもてないレフと、饒舌で女好きな文学青年な脱走兵コーリャという性格が全く違うコンビで、色々ともめたりしながらも卵を求めレニ ングラード市街、そして前線へと旅立っていくことになります。

レニングラード、そして前線において卵1ダースを手に入れるべく奔走する二人は、人肉を喰らう夫婦、地雷犬、パルチザン、ドイツ軍(国防軍アインザッツ グルッペン)等々に遭遇しながら卵探索の旅を続けていきます。不条理きわまりない命令と(卵については、さらに不条理さが増すような結末が用意されていま す)、飢餓と空腹、寒さ、戦争といったとにかく悲惨としか言いようのない状況のもとで繰り広げられる二人の冒険は、読む人を飽きさせない作りになっている と思います。卵があると嘘をついて彼らを連れ込んで喰ってしまおうとする人食い夫婦とのバトル、アインザッツグルッペンの将校とのチェス勝負等々の合間に 挟み込まれた二人の掛け合い(というか、女の子の話などなど、ボーイズトークとでも言えばいい感じ)が面白く、一気に読みきってしまう人も多いのではない でしょうか。

また、話のはじめの方で登場する著者の祖母(レフの奥さん)ですが、この物語の中盤以降で登場してきます。彼女は序盤で紹介された姿(ロシアの民話なら何 でも知っているという情報が与えられています)からは想像もつかない形で登場しますが、レフ、コーリャとは全く違うキャラクターとして描かれています。内 気なレフ、調子の良いコーリャにたいし、常に冷静沈着、という感じです。

新装版ハヤカワ・ポケット・ミステリになり、表紙の感じが以前とは随分変わって、個人的には手に取りやすくなりました。前までのデザインは、ちょっと私には敷居が高いかなという印象を受けることが多かったのですが、今回のような感じであれば手に取りやすいです。