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小松久男(編)「1905年 革命のうねりと連帯の夢」山川出版社(歴史の転換期)

山川出版社の「歴史の転換期」シリーズも6冊目、半分を超えました。今回の配本は1905年、日露戦争終結、「血の日曜日」事件をきっかけにしたロシア第一革命の始まり、ベンガル分割令、イラン立憲革命の始まりなど、世界史的にも大きな出来事が次々に起きた年です。ちなみにこの年は物理学にとっては非常に重要な年です(アインシュタイン相対性理論)。

序章ではウィーン亡命中のトロツキーがロシアやイランの革命に関して語っている事柄や、ブハラの知識人が近代化を進めた日本に注目しつつ日露戦争の発端と展開やイスラム世界の展望(青年トルコ革命には否定的だったりする)を語っているところ、そして日本にもやってきたイブラヒムの活動と世界周遊中に考えたことを扱います。なお、イブラヒムはイスラムの連帯を説くほか、インドについてはヒンドゥーイスラムの連帯を考えたりイギリスがイスラム勢力を利用しようとしているなどの考えを持っていたりします(この部分、第3章のインドの状況とはかなりちがいます)。イスラム世界の状況を序章で概観した後の内容も、イスラム系の内容が多くなっています。

扱われている内容を見ると、最初の章ではイラン立憲革命の際、タブリーズを包囲する政府軍に対し抗戦したタブリーズのルーティー、サッダール・ハーンの生涯をたどりながら、近代イランの都市社会の様子や人々のつながりのあり方の変化を描いています。立憲革命の展開、「イラン人」意識の形成のなかで、サッダール・ハーンのような任侠的な存在が存在意義を失っていく様子が、「侠たちの挽歌」とでも言い表したくなるような構成で描かれています。

第2章ではロシアにおけるムスリムたちの動向を、大改革期からロシア第一革命が終わった頃までの時期を対象としてみていきます。その間のムスリム社会が経験した変化や革命のただなかで人々がどのように行動してきたのか、そしてロシアのムスリムの多様性と、ロシア・ムスリムという単位でのまとまりのなかでの民族というまとまりの萌芽をまとめています。

第3章では序章においてイブラヒムがヒンドゥームスリムの連帯を考えたインドの状況が扱われています。ロンドンに渡った詩人イクバールの思想的展開とインドにおけるムスリムの政治的な活動の活発化が描かれています。イブラヒムが否定的に捉えた事柄が別の視点から描かれていたり、ヒンドゥーイスラムという宗教対立と言語政策の結びつきなどがなかなか興味深いです。

そして第4章では「東方問題」の舞台となったオスマン帝国と東地中海世界ギリシャクレタ島の状況について、それぞれの地で作られた憲法により規定された体制がどう変わっていったのかを比較しながら語っているようです。列強の思惑に翻弄されながら、この地域が多民族・多宗教の秩序から単一民族による国民国家へと変わっていく時代をあつかっています。

以上4章の内容は、イスラムに関連する話がかなりをしめています。ヨーロッパ列強が各地に植民地を作り、各地の国家を従属させていた時代、それに対抗する動きがイスラム世界で展開され、ムスリムたちが連帯を強める一方、国民や民族といったまとまりが意識され、時にはまとまり、時にはぶつかり合う様子がうかがえる一冊だと思います。地域的な広がりという点では少々物足りないと思うところもあります。革命のうねりと連帯ということで入れにくかったのかもしれませんが東南アジア、東アジアを扱う章を入れてもよかったのではないでしょうか。