まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

石川博樹「ソロモン朝エチオピア王国の興亡」山川出版社

高校世界史において、エチオピア王国の歴史というと、近代のアフリカ史において、独立を保った数少ない国家として取り上げられる時と、第2次大戦後の現代 の話(最後の皇帝ハイレ・セラシエが革命で打倒されたことや、その後の長きにわたる内戦状態)が取り上げられることはあります。しかし前近代エチオピアと なると、イスラムの拡大以前のアフリカ史において、アクスム王国の事がちょっと出てくることを除き、触れられることはまずありません。

もちろん、アフリカ史の概説書ではエチオピア王国のことは当然出てきますし(講談社現代新書や山川の世界各国史でアフリカについては知ることが出来ま す)、エチオピアの歴史についての単著も世の中には存在します。しかし、「オロモ」と呼ばれる集団が侵入して弱体化したエチオピアがどのように王国を再建 したのかということ、さらに18世紀後半から弱体化したソロモン朝に取って代わる新王朝の成立がなぜ19世紀後半まで見られなかったのかということは先行 研究では不明なままだったようです。

そして、本書では最初に主要史料であるエチオピア語史料など、この時代の研究で必要な史料の解説を行った後、ソロモン朝エチオピアにおいて王国再建のため に行われた様々な改革(新しい税制や統治制度、軍事の仕組み)について明らかにし、先行研究ではかなり否定的な評価(それを行うことによってさらに弱体化 した)がなされているこれらの改革について、肯定的な評価を下していきます。

さらにソロモン朝エチオピアが弱体化したにも関わらず、新王朝の樹立がなかなか見られなかった理由の一つである王位継承のルールについても明らかにしてい きます。「ソロモン統原理」とでも無理矢理命名したくなる王位継承のルールがあり、近代に新王朝が樹立されるときにも、ソロモンの血筋を引くと言う形で家 系をつくっていること(エチオピア帝国憲法ではソロモン後を引くことが明記されていたとか)が指摘されています。

このように、本書は、普通の本ではなかなか触れる機会のない、エチオピア王国の歴史について、軍事や統治制度などを説明している貴重な書籍です。とはい え、やはりこれをベースに、一般書に書き下ろしたヴァージョンがでると良いなあと思うところもあります。また、軍制について、色々な部隊(?)が登場しま したが、具体的にどのような部隊だったのか(兵科、武装等々)というところも読んでみたいと思いましたが、それはまた別の本に期待してみたいと思います。