まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ヴァレリー・ハンセン(赤根洋子訳)「西暦一〇〇〇年 グローバリゼーションの誕生」文藝春秋社

グローバル・ヒストリーと言う言葉がしきりに言われるようになった昨今、色々と世界のつながりの様子を描く本はでています。世界の各地域がつながっていくプロセスを扱うというと、多くの場合は大航海時代以降であったり、あるいはモンゴル帝国の時代であったりするところかと思われます。

本書はそのような世界各地域のつながりが西暦1000年頃に既に現れ始めていたという観点から、世界各地の歴史の状況について語っていくスタイルです。そういった本にしては珍しいなと思ったのはヨーロッパ、特に西ヨーロッパに関して単独で章立てが為されていないという所です。

大抵、世界史の本で世界がつながっていくというと、ヨーロッパ世界の成長と発展、そしてここでいうヨーロッパは西ヨーロッパ諸国のことであるという事が多いかとおもわれます。たいていの場合、何故西ヨーロッパ諸国が世界の中心になったのかというところに叙述の焦点が置かれているのかと思わされる本をみかけることはそれなりにあります。

しかし、本書では西暦1000年前後に活発な活動、様々な地域への移動を行っていた集団を取り上げるという感じで章立てが為されているように感じました。この時期においては西ヨーロッパはまだまだ不安定な時代であり、外部集団の脅威にさらされている時代です。そんな時代に、他の世界において活発な活動を見せる集団がおり、それを取り上げています。

北欧からアメリカ大陸やグリーンランドへ新天地を求め、さらにロシアにむかう者も現れたノルマン人、南北アメリカで交易を行っていた先住民、アフリカの金交易に関わったり、トルコ系の軍人奴隷の売買に関わるムスリム商人、中央ユーラシアを疾駆し帝国を築く騎馬遊牧民戦士、海上交易に従事するムスリムや中国人の商人たち、こういった世界各地を動き回る人々の存在が世界各地を結果として繋いで行くことになる様子が描かれています。

また、こういった人々の活動と並んで、彼らの活動に関連した場所で起きた政治や社会経済、文化の動向も触れられています。その中にはアジアで展開された香料交易と日本に関する話題も登場します。また、扱われている内容についてウラジーミルの改宗に至るまでの話やサーマーン朝、ガズナ朝契丹といった国々の話など、個人的にはあまり詳しく見る機会が無い所だったので、それに関する記述が結構見られたのは嬉しいです。

世界街路色と結びつき始め、富の流れが行き着く先として中国が栄えていた時代、グローバル化が少しずつ進み始めた時代について読み安くまとまっていると思います。このような大きな枠組みで世界の歴史を描く本は、一度ざっと読んでから、細かいところを色々と調べたり突っ込んだりしていくと、勉強になると思いますよ。