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しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ヘンリク・シェンキェヴィチ(森田草平訳)「十字軍の騎士」改造社

いまでは何度も映画化された「クォ・ヴァディス」で有名なシェンキェヴィチですが、彼はポーランドの歴史を題材とした小説も数多く残しています。そしていまでは「クォ・ヴァディス」くらいしか本屋では見かけませんが、日本でも他の作品の翻訳が出されていたことがありました。本書はポーランド史を題材としたシェンキェヴィチ作品の一つです。

物語の舞台はドイツ騎士団との戦いが続くヤギェウォ朝時代のポーランド、たびたび争いが起きているポーランドドイツ騎士団領の境界地帯を舞台としています。主人公の少々血の気が多いポーランドの騎士ツヴィシュコは旅の途中で見かけたダヌーシャに一目惚れ、そして彼女に騎士の誓いを立てることになります。その後クラクフにて彼がドイツ騎士団ポーランドへの使節に対し攻撃しようとし、あわや死刑になりそうになったところをダヌーシャが結婚の約束をして彼を救います。

一方、彼の叔父は近隣領主の娘でツヴィシュコの幼なじみヤギェンカと結婚させたいと思っていたりします。ツヴィシュコも彼女に対し好意は抱いているようですが幼なじみとしての関係としてしか見ていないようで、あくまでダヌーシャと一緒になろうと考えているようです。そしてツヴィシュコとダヌーシャは結婚するのですが、ダヌーシャは彼女の父親に恨みを抱くドイツ騎士団員たちにより誘拐されてしまいます。それを助けようとしてツヴィシュコは旅にでることになるのですが、、、。

ツヴィシュコとダヌーシャ、ヤギェンカの関係がどうなっていくのか、そしてポーランドドイツ騎士団の間の衝突がだんだんと激しさを増していく中でダヌーシャを救うことはできるのか、よく見かける展開ではあると思いますが、物語として結構面白く読めました。またドイツ騎士団については極悪卑劣な輩(ダヌーシャをさらった一党)もいる一方で、それなりに騎士として真っ当な振る舞いをするものもいたり、さまざまな人物が登場します。中世の騎士の冒険と愛、戦いの話として面白く読めました。

なお、今回読んだものは昭和五年に出たかなり古い本です。その後、「眠狂四郎」などで知られる柴田錬三郎の翻案による児童文学全集の1冊もあります。柴田錬三郎版のほうはツヴィシュコとダヌーシャの話を軸とし、この二人の顛末についてダヌーシャの死をもって話が終わっていますが、今回読んだほうのものではそこからさらに続きがあり、ツヴィシュコがドイツ騎士団と戦い、ダヌーシャとの誓いを果たして故郷に戻り、そこでヤギェンカと結婚して落ち着くという感じの終わり方でした。

しかし、ネットで検索して調べてみると、どうやらさらに物語には続きがあり、グルンヴァルドの戦い(タンネンベルクの戦いともいいます)とドイツ騎士団の敗北まで描いているようです。昨今、ポーランドの文学というと、未知谷でポーランド古典文学のシリーズが出されていたり(プルスの「人形」はその中の1冊)します。また、古典の新訳ということで光文社から長年にわたり文庫が出ており、結構好評と聞きます。今回読んだ改造社の「十字軍の騎士」は全訳ではなかったのかもしれませんが物語自体、非常に面白く、埋もれているのは勿体無い作品だと思います。ここは是非この本も翻訳して出して欲しいですし、やるなら完全版を出してほしいところです。