まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

レオ・ペルッツ(垂野創一郎訳)「どこに転がっていくの、林檎ちゃん」筑摩書房(ちくま文庫)

第一次世界大戦中、ロシアで捕虜となっている時の不当な扱いに対する不満から、その時のロシア軍士官に復習することを誓ったオーストリア軍の将校ヴィトーリン
。彼は同じ収容所にいた仲間たちと、復讐を遂げるための計画を練り、解放されて帰った後、準備を整え再びロシアへ向かいます。

復讐のための旅の途中、白軍将校と共に旅をし、内戦真っ只中のウクライナの前線地帯を通り抜け、途中で逮捕されたかと思えばロシアの活動家と行動を共にする。それだけで済まずなぜか赤軍の兵士として部隊を率いる羽目になったかと思えば疫病で倒れ病院に収容され、さらに復讐相手の足取りを追ううちに日々の生活にも事欠き女のヒモにもなっているという具合にあっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返します。こんなことで果たして復讐は達成されるのか、、、。

革命真っ只中のロシアを旅し、そこからヨーロッパ各地を転々としながら復讐相手を追うヴィトーリンの歩みは、なにかに操られているかのように進んでいきます。この時に彼と関わった人々の中には戦場で任務を果たせず死を選ぶもの、チェカに逮捕されてそれっきりになったもの、追い詰められて爆弾で自決したもの、そして彼と一緒に戦場にいて攻撃を受けて死亡したものなど、不幸な結末を迎えたものもいますが、彼自身は運良く、そういう目に遭うことなく旅を続けています。リンゴを転がしたらあちこち転がり、行き先がよくわからないように、人の一生もどのような結末を迎えるのかはわからないというところでしょうか。

そして、これだけ色々と回りながら、そこに至るまでの歩みがヴィトーリンにとりどのような意味を持ったのか考え込ませるようなラストが待っているわけですが、まるで邯鄲の夢枕でも与えられていたかのようです。ストーリーは少々御都合主義感を感じてしまう(どんな大変な場面でもヴィトーリンは助かり、先へ進んでいける)ところはありましたが、それでもなおページをめくる手はとまらず、一気に読みきってしまいました。ペルッツの他の作品のような幻想めいた感じではないのですが、非常に面白い一冊でした。