まずはこの辺は読んでみよう

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ジェームス・ロバートソン(田内志文訳)「ギデオン・マック牧師の数奇な生涯」東京創元社

スコットランドのある出版社に、一つの奇妙な原稿が持ち込まれました。それは半年前に失踪した牧師ギデオン・マックが書き残した手記がもちこまれました。マック牧師は失踪する直前、スコットランドにおいてちょっとした有名人となっていた人物でした。

崖から落ちて死んだと思われた3日後に奇跡的に助かったものの、そのあとは自分が悪魔と語らったといいだしたり、メキシコの死者の日をもしたような奇天烈な葬儀を行って物議を醸したり、スコットランドの小規模な田舎町の人間関係を破壊しかねないような爆弾発言を行うなど、失踪前に世間を騒がせただけでなく、彼のものとされる遺体が失踪後に発見されたものの、それから数ヶ月後にマック牧師を見たと言う人物が現れたりしています。

そんな人物の手記が出版社に持ち込まれ、出版に至る経緯が最初に描かれ、そのあと、膨大な量の「遺書」と銘打った手記が続きます。そこには子供の頃からの話が続き、牧師の子だが神を特に信じていないにもかかわらず牧師になったこと、牧師の父親との難しい関係、特に深く愛していたようには見えない女性との結婚、周囲の人間との関係などが淡々と語られています。自分が本当に思っていることと違う行動をとるかれの人生が結構淡々と語られている部分がかなりの部分まで続きます。その割には、マックの生涯はつい気になってしまうものもあり、読むことが苦痛に感じると言うことはありませんでしたが。

そんなマックの人生が奇妙な色合いを帯びていくように感じるのは、走っている途中で突然「岩」にでくわしてからのことでした。マックは岩を見たといっても、ほかにそれを見たと言うものがおらず、証拠を残そうとして写真をとっても写らない、なんとも奇妙な状況が発生していきます。そして周りからは信じてもらえず怪しまれ続けることになります。さらに、崖から落ちて発見されるまでの3日間、マックが自分を助けた悪魔と語り合ったことを饒舌に他人に語ります。岩の話も悪魔の話も、マック自身はそれを事実として語っていますが、周りからは信じてもらえることなく、やがてマックは奇妙な葬儀と爆弾発言のような説教が原因で共同体で孤立し、失踪に至るわけです。

序盤は途中で差し込まれる岩の話がノイズのように引っかかりつつ、淡々と自分の思うようにいきられぬマックの生涯が語られ、終盤の悪魔登場から急展開を見せます。しかし、この小説がさらなる展開を見せるのはエピローグでの周りの人の語りがマックが長々と語ってきた生涯とずいぶん食い違う内容を含んでいるところからでしょうか。思わぬどんでん返しに加え、幻想めいた最後の文章が、この語り自体に不気味さを与えているように思います。マックの膨大な手記が真実を語っているのか、無神論者ながら牧師になってしまった男の幻想なのか?スコットランドの片田舎を舞台に、歴史や伝説も盛り込みながら語られたこの物語は実にスリリングで面白いです。ジェームス・ロバートソン(田内志文訳)「ギデオン・マック牧師の数奇な生涯」東京創元社