まずはこの辺は読んでみよう

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エドワード・ケアリー(古屋美登里訳)「堆塵館(アイアマンガー三部作1)」東京創元社

 19世紀、ヴィクトリア女王の時代のロンドンのある地区に、巨大なゴミ捨て場がありました。そして塵の山の中心には、地上7階、地下6階、礼拝堂や診療所、食堂、教育施設まで備え、地下には鉄道の発着すら可能という館というにはあまりにも巨大な「堆塵館」があります。この館に暮らすのは、塵を扱い財をなしたアイアマンガー一族です。

アイアマンガー一族には、16歳になるとそれまでの半ズボンから長ズボンをはくことが認められるなど一風変わった習慣が見受けられますが、一番変わっているのは、一人ずつ「誕生の品」がさずけられ、それを肌身離さず持ち続けなくてはいけないというものでした。生まれた時にさずけられる「誕生の品」は人によって様々で、マントルピースのようなおおきなものから、靴べらのようなものまであります。アイアマンガーの一族はこれを持ち続けています。この「誕生の品」に対する異常なまでの執着は何から来るのかは、中盤に語られるので、そこまで待ちましょう。このような著者の作り上げた独特な世界は、これまた著者の手による不思議なイラストが引き立てています。

本書の主人公クロッドは生まれた時に浴槽の栓を「誕生の品」としてさずけられています。体が弱く、他のアイアマンガー一族からあまり良い扱いをされず、いじめられているような様子も見られます。しかしそんな彼には他の人にはない能力があり、「誕生の品」の声を聞くことができるというものでした。彼が聞くことのできる声は名前のようなもので、彼の持つ栓は「ジェームズ・ヘンリー・ヘイワード」、その他の品物も同様です。この能力は他の一族にはあまり使えないようで、それを持つことが他の一族から微妙な扱いをされる原因のようでもあります。

純血のアイアマンガー一族は地上の館で暮らし、純血でないアイアマンガー一族は地下で召使いとして暮らしておりなかなか上には行く機会がないなど、階級社会が作られていますし、純血のアイアマンガー一族のなかにも権力構造が出来上がっており、その構造の元でクロッドは色々苦労しているわけですが、そんな一つの閉じた世界が変動するきっかけが訪れます。召使いとして連れてこられたルーシー・ペナントとクロッドが出会い(この出会いがなかなか強烈で、石炭シャベルでルーシーがクロッドをぶん殴ってしまうというところから始まっています)、やがて互いに惹かれ合うようになるなかで、アイアマンガー一族の秩序を揺るがすような大事件が発生することになるのです。

主人公のクロッドは体があまり丈夫でないという設定であり、特殊な能力も持つことから一族内ではちょっと変な子供として扱われ、一族の若者たちのなかでも上の存在らしいモーアカスやその取り巻きからはいじめられてます。正直弱々しく頼りない感じしかしないクロッドが、結構鼻っ柱の強いルーシーとの出会いをきっかけにちょっとずつ変わり、昔いじめられていたモーアカスにたいしてもしっかり立ち向かえるようになるなど、随分としっかりした感じに変わっていきます。

そして何より話が大きく動き始めるのは、「誕生の品」の秘密を家長からクロッドがきかされてからでしょう。これ以降は館の秩序が変容が動揺し始め、一気に引き込まれて最後まで読みきってしまいました。このあたりを読んだ時はひょっとしてクロッドの身に何かが起きるのかと思いましたが、ルーシーのほうがあのようなことになるとは思いませんでした。頼りないクロッドが少しずつ成長し、ルーシーと二人で前に進んでいく展開になるのかと思いきや、次の話の展開が非常に気になるところで終わってしまいました。次の巻が出るのはいつになるのでしょうか。