まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

浦沢直樹・長崎尚志「MASTERキートン Reマスター」小学館

今から20年以上前に描かれた「MASTERキートン」、かつてはSAS所属、今は探偵業、保険会社の調査員をしている考古学徒を主人公とし、主人公を巡 る人間ドラマと考古学や歴史学、そして連載当時が冷戦末期および終結直後だったこともありそのころの国際情勢も絡めて描かれた非常に面白い漫画でした(私 も昔よく読んでいました。別にこれを読んだから古代史にはまった訳じゃないけど)。

連載終了からかなりの年月が経ちますが、数年前まで諸般の事情(著作権がらみ?)によりコミックスの復刊もされていませんでしたが、現在では復刊されてお り過去の作品は読むことができるようになっています。そんな作品の続編、しかも外伝的な話でなく、前作から年月を経た後の話がかかれ、それが単行本にまと められました。

20年の年月をへて、主人公のキートンを初め彼を取り巻く人々もそれなりの年月を重ねた形で登場します。そして、今回の話で国際情勢として良く出てくるの は旧東欧の情勢にまつわる話が多く見られます。東欧の人身売買に絡む話のように現在問題になっているものから、旧ユーゴ内戦や冷戦の時のスパイによる工作 のような過去にあった出来事が今もなお後まで尾を引きずるものまで含まれますし、イギリスが絡んでいる北アイルランド問題やフォークランド紛争が物語の背 景に含まれいるものもあります。

読んでみると前よりも主人公が関わる事件の背景が重苦しくなっているように感じるのですが、前作は冷戦終結へと向かうなかで新しい世界がどうなるのか、ど ちらかというとよくなるのではという雰囲気もまだ残っていた時代なのに対し、今はその頃に抱いた希望がほぼ夢想にちかく、むしろ面倒な事態が色々と発生し ているという状況にある(非対称型の戦争は相変わらず、テロも発生等々)、それが作品にも少しばかり影響しているように読んでいて感じました。

もちろん、そんな重苦しい話だけでなく、トロイア戦争についていい歳をした大人がイリオスのミニチュアを作ってどうやってこれを攻略したのかを模型を使っ たりしながら大まじめに議論している場面はなかなかほほえましく、キートンのお父さんはケアマンションにはいっているとはいえ相変わらず元気でスケベな様 子が描かれていたり(何時の間にあんな手品を)、途中途中にはちょっと息を抜ける場面もあります。

前作から少しずつ進んできているように思えるのは、ヨーロッパの文明の起源を巡るキートンの探求です。前作ではドナウ文明を探し求めると言うことで、発掘 をしている場面が最後のほうにでてきましたが、ドナウ流域の文明についての主人公もテレビでしゃべったり、講義で話したりする場面や、文明についての仮説 を他の人がまとめる場面が出てきたりします。なかなか学界で認められず、色物扱いされている感のあるキートンですが、果たしてこの後彼の研究はどのように 進んでいくのか気になります。

重い背景、展開もありますが、最後は何となく希望を抱かせるような終わり方で話を締めています。色々と大変なことは続きますが、決して諦めることなく探求 を続けるキートンの姿勢と重なるような展開ですね。次巻が出るのかどうかよく分かりませんが(1巻とか数字が入っていないので)、これからも時々話を書き 続けて欲しいと思う作品です。