まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

今年のベスト

もう今年も終わりに近づいているため、読んだ本の中でベスト本を選ぼうと思います。今年は11冊になりました(ベスト10にするのはあきらめました)。

和書(10冊)
・フィクション
オルハン・パムク鈴木麻矢訳)「黒い本」藤原書店
ジム・シェパード(小竹由美子訳)「わかっていただけますかねえ」白水社
ジュリー・オオツカ(岩本正恵・小竹由美子訳)「屋根裏の仏さま」新潮社

・ノンフィクション
橋場弦「民主主義の源流 古代アテネの実験」講談社(学術文庫)
良知力「青きドナウの乱痴気」平凡社平凡社ライブラリー
中谷功治「テマ反乱とビザンツ帝国大阪大学出版会
マーカス・レディカー(上野直子訳)「奴隷船の歴史」みすず書房
佐藤信弥「周」中央公論新社中公新書
ユヴァル・ノア・ハラリ(柴田裕之訳)「サピエンス全史(上下)」河出書房新社
藤澤房俊「ガリバルディ中央公論新社中公新書

洋書(1冊)
・ノンフィクション
Kostas Vlassopoulos Greeks and Barbarians,Cambridge Univ. Press

以上11冊になりました。小説では、イスタンブルの過去にまつわる不思議な話と、行方をくらました2人をさがす話が交錯する「黒い本」は何度も読み返したくなる本です(現在も、時々思い返すと読むことがあります)。

次に、ジム・シェパード「わかっていただけますかねえ」はある状況に関わる人物の視点から語られる物語からなっています。古代から現代まで、戦争から宇宙まで、いろいろな場面をあつかっています。なんともはっきりしない結末で終わる話が多いですが、なかなか面白いです。

そして、ジュリー・オオツカ「屋根裏の仏さま」は、「私たち」という主語で移民がアメリカ社会に馴染んでいく過程が様々な出来事が語られていきます。個人の声が一つ、また一つと集まり、アメリカに移住した日本人たちの物語が語られていくところは面白いです。

ノンフィクションは7冊、橋場弦「民主主義の源流」は以前「丘の上の民主政」という名前ででていたものが単行本となったものです。参加と責任のシステムに支えられた民主政をなんとか維持しようというアテネ市民の努力が伝わってきます。

良知力「青きドナウの乱痴気」は、1848年革命の際のウィーンを舞台に、市民たちおよび、ウィーンに住む外国人たちがどのように行動したのかといったことをまとめています。なんとも言えない苦い後味が残る本編もさることながら、あとがきのウィーンの人々は苦しみや悲しみは「シュトラウスを歌いながらみんな喉の中に流し込む」という文章が味わい深い。

中谷功治「テマ反乱とビザンツ帝国」は資料が少ないが帝国の相貌が変化していく7、8世紀ビザンツ政治史をテマ制を題材に描き出す。マーカス・レディカー「奴隷船の歴史」は奴隷貿易に関わる人々や奴隷船の構造、そして有名な奴隷船の図が描かれ、奴隷貿易反対運動が盛り上がるところを描き出しています。この2冊はなかなか読み応えがありました。

歴史物の新書では、昨今では中公新書が良い本を多く出しています。その中で読み終わったもので面白いのをあげると、佐藤信弥「周」と藤澤房俊「ガリバルディ」を挙げておきたいです。「周」は青銅器の銘文を主な史料としながら西周の礼制や軍事のあり方の変遷を中心にまとめています。「ガリバルディ」はイタリア統一の三傑に数えられるも毀誉褒貶の激しいガリバルディの伝記です。イタリア統一の英雄にして、安定を求めるイタリアおよびヨーロッパにとってはきわめて扱いに困る厄介者(領土奪回や他国の出来事への干渉を起こしています)、まさにそういう感じも受けますが、圧制からの解放者という旗印としていろいろな世界に影響を与えたその存在感はやはり英雄ですね。

最後に、ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」は挙げておきたいです。ここの事実についてはどこかで見たという話もありますが、本書で重要なのは虚構を作り、それを信じる力が人類を発展させたという視点が興味深く、そして人類とテクノロジーの関係が今後にどのような影響を与えていくのかということで示唆を与えてくれると思います。

洋書も1冊。Kostas Vlassopoulos Greeks and Barbarian は、ギリシア人と異邦人の交流を「グローバル」「グローカル」というキーワードを非常に興味深い視点でまとめている一冊です。ギリシア史の見方として非常に興味深く、ぜひ邦訳を出して欲しいとおもう本でした。

来年も面白い本をいろいろと読みたいものですが、どうなりますか