まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

アミタヴ・ゴーシュ(小沢自然・小野正嗣訳)「ガラスの宮殿」新潮社

コンバウン朝が英国にやぶれ、暴徒達が王宮に物盗りのために乱入したとき、物盗りの一団にまぎれこんでいたインド人の孤児ラージクマールとコンバウン朝の 侍女ドリーが出会います。そして時が流れ、ラージクマールは材木ビジネスで成功、ドリーはインドに追放されたビルマ王家の侍女としての暮らしを続け、やが て彼らは再び出会い結婚し、そして子供もうまれます。そんなラージクマール一家と、インドでドリーと知り合った高等文官の妻ウマ、ラージクマールの師匠の ようなサヤー・ジョン、そしてラージクマールの子供や孫世代の人々などの人間模様と恋愛模様が、激動のインド、ビルマの近現代の歴史の流れに時に翻弄され つつ、時に巧く乗りながら展開していきます。

植民地支配、文明と野蛮、支配と被支配、そういった問題のなかで難しい立場に立たされ、葛藤しながら生きていく様子が描かれています。インド、ビルマは英 国に植民地として支配されていますが、イギリスの植民地体制のもとで経済的に成功を収めた者がいる一方、果たしてこのままでよいのかという疑念を抱き、イ ンドの独立運動に身を投じていく者がいます。また、植民地社会ではそれなりのステータスを得たもののイギリスとインドの狭間で苦しみ、インド国民軍に身を 投じる者も現れます。この辺りの描写が結構多いことは、イギリスの植民地支配に対するスタンスの違いから仲違いしてしまったウマとラージクマールの登場場 面で締めくくられる本書の結末をより印象的にしているのではないかと思います。

ビルマおよびインドを題材とした歴史小説でもあり、恋愛小説でもあり、3世代にわたる家族の物語でもあるという感じで、一言でまとめるのはなかなか難しい 話です。歴史のうねりの中で、喜びや悲しみ、悩みや苦しみ、夢を見、恋をし、激しく生きた人々の織りなす大河ドラマというのが一番わかりやすいまとめで しょうか。技巧を凝らしたというタイプの小説ではないのですが、久々にぐいぐいと引き込まれていく本でした。こんな本がそろそろ品切れになりそうであり、 なおかつ文庫化の予定もなさそうだというのは何とももったいないです。