まずはこの辺は読んでみよう

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レオ・ペルッツ(垂野創一郎訳)「ボリバル侯爵」国書刊行会

ナポレオン戦争中のスペインでは、ナポレオンの支配に対し英国の支援を受けつつゲリラ達が抵抗運動を展開します。これに対してナポレオンもかなりの軍勢を 送り込みますが、結局敗退することになります。この時にナポレオンの派遣した軍隊にいたナッサウ連隊が壊滅したという設定で、連隊の生き残りがのこした手 記という形でこの物語は進められていきます。

ナッサウ連隊がラ・ビスバル市を占領しているとき、「ボリバル侯爵」という人物が占領軍に対する蜂起を計画していること、そして蜂起の3段階の合図を知っ てしまいます。それを知ったナッサウ連隊の兵士達は当然の如くそれを阻止しようとするのですが、事態は思わぬ方向へと向かい、壊滅という結末を迎えるので す。

当初は、ボリバル侯爵がいかにして占領軍の裏をかきながら活躍していったのかを書いている話なのかと思っていたのですが、それとはまるっきり違う展開をた どっていきます。なんと、このボリバル侯爵、序盤で退場してしまいます。しかしその時に彼が投げかけた言葉がナッサウ連隊の将校達になにかしらののろいら しき物をかけてしまうことになるわけです。

そして、一人の女性を巡る諍いをきっかけに様々な偶然と必然が絡まり合う中、ボリバル侯爵が伝えた3つの合図が次々と上がっていき、連隊が壊滅するという 結末を迎えます。一人一人が意図していたわけではないけれども、結果としてこのような結末を迎えるところに、人の力ではどうしようもない運命のような何か が働いているように見えてきます。そして、この物語の語り手がなぜ生き残ることができたのかを述べた結末部分をよむと、「ボリバル侯爵」とは一体何者だっ たのか、そもそも実際にいた人なんだろうか、この語り事態が信用できないんじゃないか等々、色々なことを考えてしまいます。