まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

チャド・ハーバック(土屋政雄訳)「守備の極意(上・下)」早川書房

アメリカには野球を題材にした小説は結構あります。「ユニバーサル野球協会」「アイオワ野球連盟」「すばらしいアメリカ野球」「シューレス・ジョー」などなど…。そんななかに、新たに加わったのが、この本です。

主人公のヘンリーは名手として知られた遊撃手アパリシオロドリゲス(恐らく実在の大リーガーのルイス・アパリシオから名前をとったのでしょう)にあこが れ、彼の著作を暗記するくらいに読み込み、野球をするならショート以外はありえないという選手です。そして打撃は非力ですが守備は非常にうまい選手です。 そんな彼に目をつけたのが大学の弱小野球部のシュウォーツでした。シュウォーツにさそわれて大学に進学、野球部に入部したヘンリーはやがてハードなトレー ニングを経て打撃や走塁も向上させ、得意の守備でもアパリシオのもつ無失策記録に迫る勢いです。そして、その記録更新がかかった試合でのある一球がヘン リー等々、多くの人物のその後の人生に大きな影響を与えることになるのですが…。

上段で書いたことは本の粗筋に書いてあることなのですが、実はこの部分は上巻のかなり序盤で既に出てきてしまいます。分量ではヘンリー達登場人物の人生に 深い影響を与えた「あるプレー」が起きた後、彼らがどうなっていくのかというところに多くの頁が割かれています。野球のプレー中に生じた出来事が、新たな 関係性を人々の間に生み出し、そこで展開される人間模様が描かれていきます。

相互依存のような雰囲気も感じられるヘンリーとシュウォーツの関係、ヘンリー達の通う大学の学長とヘンリーのルームメートの恋愛、学長と娘の関係等々、ヘ ンリーを取り巻く人々の人間模様が描かれています。しかし、メインとなるのはメジャーリーグのスカウトの目にも止まるようになったヘンリーが「あるプ レー」をきっかけに味わう挫折と再起の話ではないかと思います。シュウォーツの導きに従い才能を発揮して駆け上がるヘンリーが挫折と再起の経験を経て成長 していく、若者の成長物語として読みました。

ポテンシャルは高いけれど決して器用ではなく、強烈なエゴの持ち主という感じではないヘンリーが色々と苦労しそうな道を敢えて選んだ結末からは、すこしず つ主体性を発揮できるようになりつつあるのかなとも思いました。再起を果たしたヘンリーが今後どのようなキャリアを歩んでいくことになるのでしょうか。

そして、話の本筋からは逸れるのですが、ヘンリーのルームメイトのオーエンは試合中にダグアウトで本を読むのはやめておいた方が良いと思います。試合に集中しないというのはどう考えてもまずいような気がします。