まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ウィリアム・フォークナー(藤平育子訳)「アブサロム、アブサロム!(上下)」岩波書店(岩波文庫)

実は、上巻は昨年10月に発売されたのですが、下巻が今月発売されたため、1月のお薦めとしてまとめて紹介することにします。

アメリカ南部のヨクナパトーファ郡(架空の郡です)を舞台に、貧しい白人トマス・サトペンが広大な農園、立派な屋敷、莫大な財産を築き上げ、それを継承す る一族を作り上げようとして、結局それに失敗していくという、サトペン一族の興亡を描いた物語、とでも言えば良いのかもしれません。

しかし、単なるアメリカ南部を舞台として誰か一人の視点から一族の興亡が語られているというわけではありません。様々な人々が、それぞれの見たり聞いたり 知っていることをもとに想像力を働かせながらサトペン一族興亡の歴史を作り上げているかのようです。その語りの合間に語り手の意識の流れまで挟み込まれる ので、かなり複雑な構成となっており、ついて行けない人もでるかもしれませんが、はまり込むと意外と一気に読み薦めることができます。

上巻でローザ(サトペンとは色々とつながりがある。そして長年サトペンとその一族に対し憤怒を抱き続けている)やコンプソン父(彼はサトペンの友人だった おクエンティンの祖父から話を聞いて伝えている)といった語り手達がその場での台詞や身振り、心理状態に至るまで克明に語っていたり、下巻で大学の寮にお いてクエンティンとシュリーブが過去を再構成していく過程では、彼らが全く面識のない人々の台詞や心情まで語ったり、登場人物と同化したかのような状態で 語っているなど、普通だったら、そこまでは分からないだろうという所まで語っているところを見ると、実は皆、神のような視点から語っているのかと思ってし まいそうです(実際には、かなり語り手達の想像がはいっているとは思います)。

サトペン一族の歴史を様々な人の解釈を通して描き出すことで、夢を追い、夢に生き、夢に死すといった感じのトマス・サトペンの生き様にアメリカ南部の風土 や精神といったものが非常に強い影響を与えていた様子がうかがえます。南部版のアメリカンドリームを追い求めた末の帰結が、一族の破滅だったわけですが、 近親相姦についてはあれこれ理屈を付けて自分を納得させようとするにもかかわらず黒人の血がはいっているとなると全面的に拒否するというほどに、ここまで 彼らを強く縛るアメリカ南部とは一体何なのか、読み終わった後でそれが非常に気になりました。もうちょっとアメリカ南部について色々と勉強してみようかと 思います。