まずはこの辺は読んでみよう

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ジョー・マーチャント(木村博江)「アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ」文春文庫

20世紀初め、ギリシアの海底で沈没船が発見され、そこから色々な物が集められました。彫刻とかブロンズ像が引き上げられる中、小さい木箱が発見され、そのなかには一体何につかったのか判別が付かない機械仕掛けがつまっていました。

本書は、この時に見つかった妙な機械仕掛け(通称「アンティキテラの機械」)が一体何かを解明しようとする人々のドラマを描いています。これがいつ頃作ら れたのか、どこから来たのか、そしてこれが一体何をするための機械だったのかを明らかにするために多くの人々が様々なアイデアを出し、調査を進めていく姿 が描かれています。

アンティキテラの機械の謎を解明するために努力した人にも色々な人がいます。最初にこの機械について本格的に復元をしたり論攷を発表したプライスのよう に、自分が常に正しくて、間違ってるのは周りだという姿勢の人もいます。まあ、この人がいろいろと明らかにしたので、その後の研究もさらに進んだのです が。

登場人物の中では、著者は恐らくライトさんに一番シンパシーを感じているのではないかと思われます(私も、一番親近感を覚える人物です)。プライスと違い 博物館の学芸員のライトさんは時間が余りとれない等制約が厳しいなかで調査を続けなくてはいけなかったり、共同で研究している人間に先にネタをとられた り、地道にちまちまと研究しているうちに最先端テクノロジーを駆使する人達に先を越されてしまったり、おまけに家庭も崩壊したり(その後再婚しています が)、とにかく何故大変な目にあいつづけるのかと言いたくなるくらい苦労しています。それでも地道にアンティキテラの機械についての研究を今も続けている ようです。なんか、いつかもっといいことがあると良いなと思ってしまう人物です。

本書はこの機械に関わった人々の人間ドラマの方に結構重きを置いている感じですが、古代ギリシア世界の科学が現代人の思っている以上に進んでいたことを明 らかにしてくれる一冊です。しかし、もうちょっと図版が多いと良かったなと思います。機械の構造や部品の説明について、文章だけではちょっと理解しにく かったです。