まずはこの辺は読んでみよう

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吉澤誠一郎「清朝と近代世界 19世紀 シリーズ中国近現代史1」岩波書店(岩波新書)

清朝の近代史というと、アヘン戦争以降の半植民地化への道のりとして、また中国革命への前段階として書かれることが多いようですし、教科書的にはそのよう な扱いになるようで、その結果、清朝はどんどん没落し、衰退の一途をたどっているような書き方になっています。そして、清朝は近代世界において主体的に振 る舞う存在ではなく、あくまで列強の進出を受ける対象としてしか扱われていないですし、特にこの時代に強い関心を抱く人でなければ、それ以外の面に触れる 機会は非常に限られていると言って良いでしょう。

しかし、本書では、19世紀の清朝を「没落へ向かう大国」ではなく、国内の争乱や列強の干渉にみまわれながらも、体制の立て直しを進め、周辺諸国へ影響を 及ぼそうとしたり、欧米列強との間で粘り強く交渉し何とか有利な状況を作り出そうとしている清朝の姿を描き出していきます。内容は乾隆帝以降の、繁栄のゆ るみの中で清朝体制の引き締めをはかった様子や、アヘン戦争太平天国、第2次アロー戦争などの動乱の時代、ある程度の体制立て直しに成功するとともに 周辺国への影響力強化を図ろうとした時代などが描かれていきます。また、往々にして触れられずにすまされがちな当時の清朝の社会や経済についても頁を割い ており、なぜ清朝体制の立て直しが可能となったのかも、より深く触れられています。

また、色々な項目についても、かなり興味深い内容が含まれていました。たとえばアヘン戦争について、アヘン貿易とアメリカ商人の関わりや、アヘン貿易が国 際商業と結びついていた様子、そして当時の銀を巡る状況などが書かれていたり、アヘン貿易により銀が流出というよく言われる状況がずっと続いたわけではな く、ゴールドラッシュの到来とともに金の時代に移行する中で、銀が中国に流入するような事態も起きていたと言ったことは初めて知りました。

近代中国史というと、欧米による侵略の歴史として書かれる一方、その間の中国の状況がすっぽりと抜け落ちるという扱われ方が多い中で、このように当時の中国(清朝)の姿を限られたページ数でまとめた本はなかなか貴重だと思います。