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しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

トム・ジョーンズ(岸本佐知子訳)「拳闘士の休息」河出書房新社(河出文庫)

元ボクサーで、コピーライター、用務員等々の経歴を持ち、てんかんや糖尿病などの病気に苦しみながら小説を書き上げたという、極めて変わった経歴を持つトム・ジョーンズの短編集です。

表題作「拳闘士の休息」、弟子にアドバイスをするアル中の元チャンピオンを主人公にした「ロケット・マン」、特殊学級出身の用務員を描いた「シルエット」 等々、著者の経歴と何かしら関係のある話題が盛りこまれた小説が多く見受けられます。登場人物は、どこかしら傷を負っていたり、頭のネジが何本かゆるんで しまっているような人が多数見受けられますし、彼らを取り巻く状況はかなり厳しい感じもします。そのような状況下でも、それ程暗くなく、むしろ前向きにす ら感じられるのだから不思議な物です。さらに、随所に取り上げられるショーペンハウアーの言葉も、そのような印象を与える効果があると思います。個人的に は表題作「拳闘士の休息」、「わたしは生きたい」、「シルエット」の3本が印象に残りました。

ヴェトナム戦争に実際には従軍していない(てんかんのため、実際の戦争に行っていない)にもかかわらず、非常にリアリティのある戦争描写がかかれていた り、実際に自分が経験したことを踏まえたリアルさを感じさせる描写がボクシングの場面にみられたり、自分が経験したことはもちろん、実際に経験していない こともここまでリアルに描くことが出来る著者の筆力は凄いと思います。