まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ジム・ホワイト(東本貢司訳)「マンチェスター・ユナイテッド クロニクル」カンゼン

サッカー界では、今や世界有数のビッグクラブとなったマンチェスター・ユナイテッド。通称「赤い悪魔」の存在感は、イングランドリーグのみならずヨーロッパのサッカー界においても非常に大きな物があります。「ユナイテッド」と名のつくサッカーチームと言ったらマンチェスター・ユナイテッド以外にもありますが、まず勝負にならないでしょうねえ…。

しかし、そんな「赤い悪魔」もおよそ130年前に鉄道員のチームとして産声を上げた頃は非常によわく、ぱっとしない成績で、財政基盤も怪しいチームだった とは、知っている人は少ないでしょう(私もそこら辺はあまりよく知りません。当時のチームは、セントバーナード犬に財政破綻を救われたという伝説もあるく らいです)。

本書は、ファンが書いた本だということで、すべてを正当化しているような感じだったり、一面的な描写になっていたりするんじゃないかと思いながら読んでい ましたが、そういうところはほとんど見受けられません。伝説的な存在であるサー・マット・バスビーや現在の監督サー・アレックス・ファーガソンについて も、きわめて人間くさい姿も描き出しています。

一例を挙げると、ファーガソンが一時競馬(馬主としての関わり)にはまりこみ、そこでこじれた人間関係があの忌々しいアメリカ人オーナーによる買収につな がってしまうことになったり、バスビーと金を巡る全く矛盾した態度(選手に対して言うことと、選手獲得時にえさで親を釣り上げることはどう考えても矛盾し ている)をとっていることや、非常に強権的であったことを取材に基づき描き出しています。

また、歴史の本を読んでいると、後のことを知っている読者の視点と、その当事者のとらえ方が全く違うことは良くありますが、ユナイテッドの歴史においても そういうことはあり、あとになって、「あの出来事が節目だった」と言われることが、それが実際にあった当時はそれ程重要なものとはおもわれていなかったと いう事にも気づかされます(1990年FAカップの対ノッティンガム・フォレスト戦)。

そんな話も交えながら書かれている本書はファンによるユナイテッド礼賛本ではなく、ユナイテッド側としては正直触れて欲しくないようなことにも触れつつ、 クラブに関わった人々を消して神格化せず、ありのままに描いた一冊です。「赤い悪魔」が生まれ、成長し、一個人ではとうてい制御不能な巨大な化け物へと成 長していった様子を描き出した大河ドラマとして読むと、非常に面白いと思います。