まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

姜尚中(総監修)「アジア人物史9 激動の国家建設」集英社

アジア人物史も残すところわずか、今回の9巻は近代国家建設や民族運動に関連する項目が多くなっています。最初に「東学」を生み出した崔済愚と高宗をとりあげたあと、様々な地域を見ていくという感じです。

内容を見ると、パン=イスラム主義で有名なアフガーニーや、トルコ共和国建国の父ムスタファ=ケマル=アタテュルク(昨今のアタテュルクに対する扱いも少し触れています)、そして中国革命でよくでてくる孫文といった有名人から、名前だけはどこかで見たとおもうサヤー=サン、そして中央アジアの革命家や日本にもやってきた近代イランの知識人政治家など、なかなかこういう企画などに関心が無いと目をする機会が無い人たちも多く取り扱われています。

西アジア、東南アジア、中央アジア、かなり多くの人物を世界各地の事柄で取り扱うため、どうしても分量は少なめになるところもありますが、自分があまり良く分かっていないところを読むのは正直なところ大変なこともあるけれど面白いものです。

そして、この巻で最も多く扱われているのは幕末(ここで渡辺崋山もでてきています)、そして明治の日本で活躍した人々です。 江戸時代の佐久間象山横井小楠など、幕末の群像という形でこの時代に活躍した人々で一章をさき、さらに経済の分野で渋沢栄一を中心に描き、さらに日本におけるキリスト教ということで内村鑑三南原繁矢内原忠雄をとりあげ、さらに内藤湖南など日本の東洋学者をについても一章をあてて近代日本の思想や学術についても扱っていきます。

そして本書は900頁を超えるという他の巻よりも分厚い内容となっていますが、その中で1章をほぼ一人で独占し、しかも130頁も使って書かれているのが伊藤博文です。本シリーズの執筆者を見ると、歴史を専門とする人が多い中、ここの執筆者は法学部の先生であり、憲法学や法学といった観点からの話が多く盛りこまれています。伊藤博文個人の伝記的内容もありますが、イントロでヨーロッパにおける主権国家体制の成立や国家についてとりあげ、この時代のヨーロッパにおける憲法学や法学の潮流と日本がどのように関わってきたのか、伊藤たちが「国のあり方」を考えるために当時の憲法学、法学を学びながら日本で純然たる君主政のもとで「憲法政治」を実現しようと努力する様子が描かれていきます。その一方で、めざす「憲法政治」が果たして実現できたのかという課題についても考えさせられる内容となっています。

西欧文明と直接向かい合わなくては行けなくなったアジア諸地域において、どのようにして国家建設に取り組もうとしたのか、西欧近代と向き合いそれにどのように対応しようとしたのか,各地域で違いが現れてきます。人物を通してその様子を描いた一冊、非常にボリュームのある巻ですが面白いと思います。