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佐藤信弥「戦争の中国古代史」講談社(講談社現代新書)

現在連載中の「キングダム」をはじめとして中国古代史を舞台とした漫画や小説は数多くあり、そこでも戦争はかなり扱われています。数多くの戦争が中国の歴史の中でどのような意味を持つのか、戦争が中国に与えた影響は何か、その辺りはいろいろな本や論文で扱われています。

本書は、漢の武帝期までの戦争と中国古代史を対象とし、戦争を通じて「中国」が形成されていく過程を描くという一冊になっています。「中国」という言葉は西周時代の金文にて登場します。ここで表された「中国」はかつての殷王朝の首都圏、殷の王畿にあたるようですが、この範囲が拡大していき、武帝の時代の領土拡大戦争の時点で「中国」が出来上がっていく、その流れが書かれ、それに関連して軍制や武器、軍礼や兵法などについてもふれられています。

西周滅亡後の春秋時代には覇者体制のもと、多くの諸侯が並立するなか国際秩序が形成され、戦国時代になると諸侯の領土拡大や王号使用、富国強兵を通じて複数の勢力を支配下に置く「小帝国」がいくつか現れ、その中の一つだった秦によって六国が征服され統一されていきます。その後は、郡県制のもとでの統一に対する反発から反乱が起こって秦が滅亡し、その後の項羽の支配体制でかつての国際秩序への揺り戻しがみられますが、最終的に漢のもとで「中国」が出来上がっていく、その際に草原を支配する帝国との抗争が大きな意味を持っていたということになるようです。

一般向けの書籍ですが、古代中国史に関して最近の研究成果を随所に盛り込んでいます。殷の時代にすでに騎兵がいた可能性があることや、秦時代には兵士の食糧は自弁で、兵站の弱さが秦の短期間での滅亡に影響したといったことなど、興味深い内容が色々と見られました。「宋襄の仁」というと無駄な情けをかけて失敗した事例として説明されますが、当時の思想的な観点からは決して否定的な評価だけではないということは驚きました。何に重きを置いてみるかにより、評価も一変するということでしょうか。

本書では最近の研究を取り扱うにあたり、議論が分かれるところはそれについてふれており、一般書にありがちな断定的な語りで自説を読者に押し付けるという感じではなく、かなり抑制的な叙述になっていると思います。一方、くだけた話題も随所に盛り込まれ、中国ドラマや映画、そして昔懐かしい漫画(『東周英雄伝』とは随分と懐かしいものをみたものです)といったものも盛り込まれています。この辺りは著者の趣味関心のあらわれといったところでしょうか。