まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

イーヴリン・ウォー(小林章夫訳)「ご遺体」光文社(古典新訳文庫)

英国出身の詩人(ただしアメリカでの仕事はペット葬儀社勤務)デニスは映画会社を首になったことをきっかけに自殺してしまった同居人サー・フランシスの葬 儀のため、ハリウッドでも評判の葬儀会社「囁きの園」をおとずれます。そこではエンバーミング(死化粧)を施す係の女性と恋に落ちますが、彼女の上司もま た彼女の気を引こうとして死者の顔をほほえませて彼女の所におくっていたりします。一方で彼女も「導師バラモン」なる人物のラジオ人生相談みたいな物には まっていたり…。

全体を通して、ブラックで皮肉の効いたお話でした。アメリカ社会への皮肉、そして権威主義的なイギリスに対する皮肉が次々と書かれています。ペットの葬儀 のみならず、人間の葬儀についてもまるでテーマパークみたいな「囁きの園」なるものがあらわれたり、死者を弔うという世間的な認識としてきわめて厳粛・神 聖とされる事柄をここまで書いてしまうとは。もっとも、死者を弔う、お墓にお参りするといった行為は生きている人が自分のためにやる物というところもあり ますが。

それはともかくとして、20世紀前半でペットの葬式なんてネタを書く人がいるとは思いませんでした。現代ではペットに対してものすごいお金と手間をかける ことはよく見られるようになり、葬式もけっこうやっていますが、そんなことはごく最近のことだと思っていました。もっとも、この辺もウォーによる皮肉なの か実際にあったのかはわかりませんが。

何年か前に日本の映画で「おくりびと」という作品がありました。実際に見ておらず世間の評判しか聞いていませんが、同じ死者を扱う作品とはいえ、方向性はまるっきり逆な作品ではないかとおもいます。どちらがいい、というわけではありませんが、こういうのも有りだろう。

実は、今回読んだ古典新訳文庫とほとんど間をおかずに岩波文庫から同じものの邦訳がでていたりします。で、タイトルですが岩波では「愛されたもの」、こちらは「ご遺体」、The Loved Oneがご遺体の隠語ということでこう言うタイトルにしたようですね。