まずはこの辺は読んでみよう

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山花京子「古代エジプトの歴史 新王国時代からプトレマイオス朝時代まで」慶應義塾大学出版会

古代エジプトの歴史というと、ピラミッドや大規模な神殿などの建造物、ミイラや死者の書などの死後の世界にまつわる文化、オシリスなどの神々、ツタンカー メンやラムセス2世などのファラオ、そしてクレオパトラについて扱われた本は多数ありますし、発掘に関する本も結構あります。しかし、古代エジプトの歴史 について、1冊でまとめていて簡単に読める物というのは案外見かけなかったりします。

本書は、新王国時代からプトレマイオス朝時代までのエジプトの歴史という、エジプトが地中海世界やオリエントとの関わりを深め、それらの世界の影響を受け つつ、エジプトの文化が他地域に分散して影響を与えていく時期をあつかっています。新王国時代のエジプトの社会や芸術、第3中間期(分権的状況)と末期王 朝時代、アッシリアやアケメネス朝の支配下におけるエジプトの状況、プトレマイオス朝エジプトの社会や文化について1冊で読みやすくまとめられています。

内容としては、新王国から第3中間期、末期王朝のあたりの内容が多いのですが、プトレマイオス朝についても政治史のほかにわざわざ社会と文化について章立 てを設けてまとめるなど、一読してみた限りでは、邦語で最近の研究動向も反映したプトレマイオス王朝の歴史の本として、入り口としての役割はそれなりに果 たしているのではないかと思います。参考文献表もついており、それをみると、比較的最近の研究動向も反映されているようです(もっとも、アレクサンドレイ アについてフレイザー(Fraser,P.M.)の大著がみあたらなかったり、この本は見当たりませんでしたが、最近のヘレニズム史関係の本も参考文献に載っていたりします)。

発見される遺物が人目を引きやすい物であったり、一般人向けにはエジプトの扱われ方がどうしても発掘による新発見のほうに重きが置かれているためか、どう してもミイラとか王家の谷の発掘などに目が向きがちで、社会や政治の仕組みにまではなかなか興味がむきにくいところです。しかしそういった内容もコンパク トにまとめており、古代エジプトの長い歴史の後半部分について、色々と知ることが出来る貴重な一冊だと思います。