まずはこの辺は読んでみよう

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海老沢哲雄「マルコ・ポーロ」山川出版社(世界史リブレット人)

昨今、実在しているのかどうか疑う人もいるマルコ・ポーロですが、世界史リブレット人のシリーズから彼についての本がでるということで、どのような本にな るのか気にはなっていました。全体的な内容としては、マルコ・ポーロがあまり旅先での暮らしだとか旅程についてはほとんど語っていないため、彼個人につい て知りうることはあまりないなか、「東方見聞録」の記述を検証していくというスタイルで書かれています。

一冊読み終えたあとの感想としては、人としてのマルコ・ポーロについては結局のところよくわからないとしか言えないのですが、いくつか興味深い話題が取り 上げられていました。例えば、マルコがどうもモンゴルの宮廷に使えるようになった背景には、ケシクとしてフビライの宮廷に入れられていた可能性が高いこと が指摘されています。序文での父ニコロがフビライにマルコを紹介するときにしもべという表現を使っていること、モンゴル宮廷の様子を描いた描写がかなり克 明であることなどからそのように推測されていますし、さらにはマルコが側室選抜から漏れたモンゴル人女性を妻に迎えていたのではないかと考える人もいるよ うです。

このようななかなかに興味深い記述がある一方で、これは自分をいかにすごく見せるために書いたのだろうという箇所も多々あります。マルコの父親と叔父がフ ビライから教皇宛書簡を託されたということや、投石機の開発にマルコが関わったことなどは、マルコおよび彼の父親や叔父の自己アピールというところでしょ う。その類の自己アピールの話は、自分がキリスト教界のために一肌脱ぎ、福州の宗教団体がキリスト教徒として認められたのだと誇るような話などなど、「東 方見聞録」のなかにはいろいろあるようです。

そのほか、興味深い事柄としては、マルコの「遺品目録」をみると、明らかに転売するために持ち込まれたと思われる繭や生糸、馬の毛といった高値で売れそう な商品のほか、モンゴル人女性のかぶり物なども残されているというところです。なぜそのようなものを持っていたのか、その理由は定かではありませんが、マ ルコとモンゴル人の関係を色々と推測させる一品ではあります。

そしてマルコの書き残した見聞録はいろいろな人にいろいろな形で受け入れられていますが、コロンブスはトスカネリが宛てた書簡を通じて見聞録の情報を知っ たと言うこと、カトリック両王コロンブスに大カーン宛手紙をもたせたことや、彼が大カーンのもとに賢者を連れて行くと意気込んでいたりするなど、見聞録 の意外な影響がうかがえます。

全体を読んでみて、マルコの伝記というかんじはあまり受けない一冊でしたが、ケシクの一員としてフビライの側に仕え、様々な情報に接する機会をもち、それ に加えてちょっと誇張した話を盛り込んで「東方見聞録」として書き残したマルコ・ポーロは物書きとしての才はかなりあったということはわかりました。そし て、「東方見聞録」という書物が興味深く、しかし極めて扱いの難しい書物であるということも伝わってきます。