まずはこの辺は読んでみよう

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沢田勲「冒頓単于」山川出版社(世界史リブレット人)

騎馬遊牧民の歴史を扱う時、現在のモンゴル高原を中心に強大な勢力を誇った匈奴に関しては必ず触れられます。特に匈奴の勢力を強めた冒頓単于については単 于の地位につくまでの物語や、攻め込んできた劉邦を包囲し追い詰めた話は世界史でも小話的な形で触れられることもあるかと思います。

本書では、冒頓単于の登場以前から冒頓の時代までを扱い、クーデタによる権力簒奪、隣接する東胡との戦い、そして漢の高祖劉邦を包囲し、漢との間に匈奴優 位な関係を樹立したこと、彼の生涯について触れつつ、匈奴の国家体制や匈奴遊牧国家を発展させた冒頓が目指したところは何だったのかといったことをコンパ クトにまとめています。

単于を出すのは特定氏族であり、その氏族を含めた特定の種族が匈奴において権力を握っていたこと、さらにその種族を中核として様々な種族が連合している体 制であり、周辺諸勢力を従属させて貢納や軍役を負わせていたことなど、匈奴国家の仕組みについてまとめられています。匈奴の国家などについてコンパクトに まとまっており、本書を読むと大体の枠組みは頭のなかに入るのではないかと思います。

匈奴の国家体制以外に興味深い事柄としては匈奴には他の遊牧民と異なり始祖説話がないこと、「史記」に伝えられる匈奴・夏后氏起源説と匈奴の強大化と中華 意識の高揚に関係がある可能性があること、土地への執着が薄い遊牧民世界ではあるが隣接する国との間に緩衝地帯を設けていたらしいことなどが取り上げられ ています。個人的には、遊牧民の世界は放牧地には労働や物資を投下して改良することがない分、定住農耕民の世界以上に土地にこだわってたのではないかと 思っていたので、こうした土地に対する意識の存在については納得がいきました。