まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

田中比呂志「袁世凱」山川出版社(世界史リブレット人)

袁世凱というと、あまり良いイメージを持たれていないようです。特に、戊戌政変のときの対応や、辛亥革命とその後の展開は悪いイメージを持たせるには十分ではないかと思います。しかし、果たして彼に対するイメージは正しいのか?

本書では、袁世凱の生涯を清末から中華民国建国後までの中国近現代史の流れの中に位置付けようとする一冊です。袁世凱の生い立ちから始め、清末、激動の東 アジア情勢の中で朝鮮情勢に関わり、また李鴻章など清朝の有力者との関わりのなかで頭角を現していく様子が描かれていきます。そして辛亥革命の勃発とその 後という展開になっています。

辛亥革命ののちに大総統となってからの袁世凱は宋教仁暗殺、革命派の弾圧などを行いながら、ついには皇帝にまで上り詰めるという権力闘争に明け暮れた姿が 目につくため、それも袁世凱に悪いイメージを持たせる要因となっているようですが、彼自身は清末には立憲君主制を支持する改革派(もっとも改革派のなかで もっとも保守的な部類でしたが)の政治家であり、本書では袁世凱の改革路線についてかなりページを割いて説明していきますし、読んでいて一番面白く読めた 部分でした(革命後の話はまあいいや、と言ってはいけないのでしょうが)。

この本を読んで色々と勉強になったことをあげると、まず、袁世凱というと、戊戌政変においては光緒帝から期待をかけられながら、保守派に密告をしたということで評判が悪いのですが、戊戌政変自体は袁世凱の「報告」以前にすでに動き出していたということは初めて知りました。

日清戦争の後から辛亥革命直前期(罷免されるまで)の袁世凱が行った軍制改革をはじめとする清朝における改革路線、義和団事件の後に直隷総督として進めた 「北洋新政」について結構コンパクトにまとめているとおもいます。軍制改革では、体格がよく、かつそれなりにちゃんとしたものを兵士とすることや、軍事学 校を設立してそこで教育を受けたものたちを将兵とすることなどが定められたり、教育改革では学堂を増やし人材育成を進め、天津の治安維持のため近代的な警 察機構を設立、衛生制度や監獄制度の改革、農業や工業の振興と鉄道の建設推進(鉄道建設に際し借款なしに達成したとか)、そして直隷省の地方自治の推進、 これらを袁世凱が進めていったわけです。

こうした改革を進めた袁世凱は開明的・改革的官僚としてその存在を知らしめ、彼の路線は他所でも参照されるようになるとともに、国政においても重要な存在 となっていくわけですが、袁世凱の「北洋新政」において、日本人顧問が用いられ活躍していたことや日本に留学生を送っていたことは知りませんでした。のち に袁世凱は二十一か条の要求を日本から突きつけられ、そこに日本人顧問を置くことが盛り込まれていましたが、日本側も昔日本人顧問を受け入れていたのだか ら、今回もいいだろうくらいに思ってこういう条項を入れたのでしょうか。