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青柳かおる「ガザーリー」山川出版社(世界史リブレット人)

ガザーリーというと、イスラム世界の歴史についての教科書的記述ではスーフィズムとの関係 でその名前が登場します。本書ではガザーリーシーア派を論駁し、哲学を批判的に受容し、神学や法学を発展させ、スーフィズムを取り入れることによりスン ナ派思想の枠組みを作り上げていった様子、そしてガザーリーの思想の現代的意義について、彼の生涯や思想について簡潔にまとめながら迫っていこうとしています。

ガザーリーの哲学批判についての箇所で批判の対象となるものをきちんと学び、それから批判を展開していくというガザーリーの姿勢が語られています。相手に 向き合った上で批判を展開しようという姿勢は非常に素晴らしいと思います。そして哲学のなかでも論理学や数学などはどんどん取り入れるいっぽうで形而上学 は徹底的に批判していきます。その結果、神学のほうで哲学のなかでも論理学をとりこみ、哲学に神学が接近していくことになり、哲学のほうはイブン・ルシュ ドがガザーリー批判を行うものの後継者がおらず衰退していったということです。哲学批判だけでなく、シーア派についても批判をおこない、さらに神学など諸学問についても探求を続けていった様子がまとめられています。

しかし、様々な学問を探究してもなお信仰の確信を得ることができなかった彼はニザーミーア学院をやめて放浪の旅にでて、スーフィズムの修行や実践を行い、 様々な著作を著し、スンナ派の諸学問の中にスーフィズムを位置づけることに成功していきます。スーフィズムとイスラウラマーの関係は緊張関係にあり、スー フィーが意図的にイスラム法を軽く見たり、ウラマーから警戒されるところもあるなか、イスラム法を守りながら日常生活を送りながら神との合一を得ることは 可能だという彼のスタンスは穏当かつ受け入れやすかったのでしょう。

現代のイスラム世界でもガザーリーの説が参照されることがあるということで、例えば避妊と中絶についてイスラム世界の学者達がどのような見解を述べるにし ても彼の説に言及しているということは非常に興味深いものがあります。また避妊と中絶に限らず、現代イスラム世界とガザーリーの説の関係を考えるにあた り、ヴェールの着用といった女性に関する事柄をとりあげ、論をまとめています。現代世界との関係と言うことではこのあたりのテーマがやはり一番印象に残り やすいということで選ばれたのだと思いますが、他の分野においてガザーリーの思想と現代世界がどのような関係にあるのかといったことも触れて欲しかったな と思います。

本書では現代的な意義についての考察もありますが、やはりメインはイスラム思想史におけるガザーリーの意義をコンパクトにまとめて示したことではないかと おもいます。シーア派など分派が出て行った後にのこった「その他大勢」に過ぎなかった多数派が「スンナ派」として形作られる上で彼が果たした役割の大きさ について知るきっかけになる一冊だと思います。