まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

毛利晶「カエサル」山川出版社(世界史リブレット人)

古代ローマの数多くの人物の中で、ある史家をして「ローマ史が生んだ唯一の天才」とまで言わしめ、多くの人の興味を惹いてやまないカエサルについてコンパ クトにまとめた一冊です。共和政ローマの状況について簡潔にまとめ、その後はカエサルの生涯をたどり、カエサルの神格化や彼がその後のローマに残したもの についてとりあげていきます。

カエサルに関して、出生時には特筆すべき逸話が残っていない事と比べ、貴族仲間から警戒される存在であったことを伺わせるエピソードは若い頃から色々と出 てきます。スッラににらまれた後も公然とマリウスとの結びつきを示す姿勢をとることや、つねに女性的な格好をしていたこと、金の力で若くして大神祇官に当 選したこと等々の若いカエサルの行動から当時の貴族政治家達は異質な邪魔者、危険な者といった雰囲気を感じさせる何を感じていたのかもしれません。実際、 カティリーナの陰謀に関与しているという中傷をながされたという話も伝えられていますが、陰謀の時点では大して実績があるわけでもない若いカエサルを警戒 する者の存在を伺わせるエピソードではあります。

カエサルは政局を読み果敢な行動を速やかにとることができるといったことや、自分にとって何が一番重要かを判断し、即座に行動できることがカエサルの強み であるという指摘が本書において出てきます。一方で、カエサルは腰を据えて新しい体制を作り出すという忍耐や能力は無かったという見解を示しています。カ エサルについての評価はいろいろありますが、様々な改革や都市の改造、灌漑事業などに着手してからまもなく暗殺されてしまったことから色々と想像を膨らま せる余地が残ってしまったと言うところが大きいのでしょう。

ある人物が現在の我々から見て重要な事柄を行い、さらにそのことが後の時代にまで影響を与えていることを見ると、我々はその人物が長期的展望を持っていた とついつい考えがちです。しかしはたしてそれは後の時代に生きる我々が結果を知っており、そこから逆算して考えているためなのかもしれません。「英雄」を 評価することは難しいですね。