まずはこの辺は読んでみよう

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上垣豊「ナポレオン 英雄か独裁者か」山川出版社(世界史リブレット人)

フランス革命の混乱のなかで一人の軍人が人々の期待を集め、フランスの救世主として現れてきます。そして権力の階段を駆け上がり、皇帝として即位し、一時 はヨーロッパの大部分を支配します。しかし、栄光の時は長く続かず、没落し、再起を図るもそれは叶いませんでした。そのような波瀾万丈な生涯を送ったナポ レオンの生涯を96頁ほどでまとめた一冊です。

本書の構成を見ると、ナポレオンの誕生から死までのながれと、ナポレオンの神話化、ナポレオン伝説の後世への影響をまとめるという形をとっています。傾向 としては、軍事面での活躍よりも、統治者としてナポレオンが何を行い、後世にどのような影響を与えたのかということにどちらかというと重きを置いていま す。

ナポレオン自身の生涯も劇的ですが、彼の脇を固める人々も非常に個性的で、なおかつ激動の時代であり、どこに焦点をあてて書くかと言うことは重要だと思い ます。ナポレオンの本ということで、彼の軍事面について知りたい、興味があるという人には正直なところ物足りないと思います。しかし、フランスの支配者と して彼が行った諸政策についてはコンパクトにまとめられていて、概要を掴むには良いと思います。

また、ナポレオン伝説の形成とひろがりについての簡潔な見取り図としてもそれなりに役に立ちそうな気がします。時代によって、そして立場によってナポレオ ンにたいする見方は大きく変わるところがあるようです。ルイ=ナポレオンとしてはナポレオン伝説を最大限利用し、皇帝ナポレオン3世となってからは意図的 に触れなくなるという、第二帝政成立前後の状況は、なんとなくそれはわかるようなきがしました。

その他、革命期に亡命していた貴族達が意外と戻ってきていたことや、植民地関係の問題や亡命貴族の扱いなどについてジョゼフィーヌの果たした役割などなど、随所に興味深い指摘もありました。

96頁ほどの分量でナポレオンについて、必要最低限な情報と、いくつかの興味深い指摘を盛りこみながらまとめており、手っ取り早くナポレオンについて知りたいのであれば有用だと思います。血湧き肉躍るような楽しさをこの本から感じ取ることは少し難しいかもしれませんが。