まずはこの辺は読んでみよう

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メシャ・セリモヴィッチ(三谷恵子訳)「修道師と死」松籟社

オスマン帝国時代のボスニアを舞台に、修道師(これは本書の独自の訳語)アフメド・ヌルディンは弟が突如捕らえられてしまいます。そしてかれのもとに判事 の妻が自分の弟に相続権放棄するようにできないかと相談をうけたとき、彼はそれによって弟を助けられるのではないかと考えますが、結局それは受けないこと に。

そして彼は弟を助けるため奔走するのですが、その過程でいままで出てこなかったものがいろいろと現れてくることになります。ヌルディンにしか存在が分から ない逃亡者イシャークとの対話、弟の逮捕の背景の判明、ヌルディン自身の逮捕などをつうじ、平凡な一修道師としての生活が一変していく過程が膨大な彼自身 の語りと内面の描写を通じて描かれていきます。

ヌルディンのまわりの人々、特にヌルディンとは対照的な人物ハサンと、ヌルディンの過去と関係のありそうなヌラ・ユースフの存在がかなり目立ってくる第2 部になると、心の中で憎しみがふくれあがり、そして変貌したヌルディンが描かれていきます。修道師としての生き方をしていた頃は抑えられていたものがあふ れだし、それから生き方が一変していきます。

非常に細かく濃密な心理描写が連なり、しかも捕らえられた弟の名前は話がかなり進まないと出てこなかったり、色々な人間関係が分かるようになるまで時間が かかるという展開もあり、なかなか重苦しい読後感が残りました。「信仰の光」という名をもつ男が、心の奥底に澱のようにたまったものがあふれ出していくと ともに変貌していく終盤になってからの展開は非常に早いです。