まずはこの辺は読んでみよう

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アガサ・クリスティー( 安原 和見)「オリエント急行殺人事件」光文社(古典新訳文庫)

推理小説をよく読む人はもちろん、そうでない人でも、アガサ・クリスティーの名前はどこかで聞いたことがあるでしょう。また、NHKの海外ドラマ枠で、長年にわたり放送された「名探偵ポワロ」を見ていた人も多いのではないでしょうか。

緑の眼に卵型の頭、黒髪(晩年は禿げあがりますが)で、ピンとはね上がった大きな八の字の口髭、そして冴え渡る灰色の脳細胞をもつベルギー人探偵ポワロが様々な事件を解決していく物語をテレビドラマで見てきたものの、大昔に「アクロイド殺し」と「カーテン」に挑戦してみたくらいで、それほど熱心に読んでいなかったのですが、たまたま新訳で入手できたので読んでみることにしました。

ヨーロッパを走る長距離鉄道オリエント急行、開設当初はパリとイスタンブルの間を結ぶ路線から始まりやがて色々と拡大していきます。イスタンブルを出発して、西ヨーロッパまでつながるその列車には、様々な国の人々が乗り込んでいました。列車は途中で雪のために止まってしまいますが、その時に車中で殺人事件が発生します。雪に閉ざされた車中で、12箇所も刺されて殺された被害者ラチェットの素性をしったポワロは同乗していた医師コンスタンティン、友人でありワゴン・リ(オリエント急行の運営会社)重役ブックとともに乗客たちの事情聴取を行いますが、乗客たちのアリバイは補完され、犯人を特定することがなかなかできません。

雪に閉ざされた列車という密室に近い状況で発生した殺人事件、それはなぜ起きたのか、そしてこの事件よりかなり前にあった誘拐殺人事件との関わりは何か、そしてラチェット殺害の犯人は誰なのか、ポワロの灰色の脳細胞が導き出した解答はどのようなものなのか、、、、。

豪華な寝台列車を舞台に、全く異なる背景を持つ人々が乗り合わせ、そこで事件が起きて解決に向かう、映画版では豪華な配役と謎解きで人を楽しませる作りになっていました。いっぽうテレビドラマ版では謎解き自体はそれほど重視されず、人が人を裁くことの重さ、苦さを強く感じさせる結末になっていきました。一読した印象としては、原作はどちらかというと重さや苦しさを感じさせたテレビドラマ版より映画版の雰囲気のほうがあうように感じました。謎解きのプロセスの面白さ、なんとなく人情味を感じさせる結末、しかし物語の根底には人が人をさばき死に追いやることや、法で裁けぬ悪はどうすれば良いのかといった重い題材が潜んでいる、読んだ人が色々と考え、解釈し、それを表現できる作品だと思います。2017年の冬に公開される映画がどのような作りになっているのかが気になります。