まずはこの辺は読んでみよう

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絲山秋子「離陸」文芸春秋社

主人公は国土交通省の若手キャリア、物語当初は矢木沢ダムに勤務しています。そんな彼の目の前に突如として現れたイルベールというフランス人、彼が主人公 に依頼したこともかなり突飛なことでした。その依頼とは主人公の元彼女、「女優」乃緒を探して欲しいと言う以来でした。物語はこのあとパリ、そして熊本県 八代へと舞台を変えつつ、何年にもわたる主人公の探求の旅、様々な人との出会いと別れが描かれていきます。

主人公は恋もし、結婚もし、そして親しき人々との別れも経験しながら、なぜか1930年代の写真に姿を見せたかと思うと、イスラエルの映画に登場していた り、子供を残して出奔したりと色々なところに姿を現す乃緒を追いかけていき、ついに乃緒(とおぼしき人)に出会うのですが、、、、。

どんなに長く生きていても、世の中のすべてが分かるというわけではないですし、自分の知っていることだけが世界ではないと言うことはよく言われることで す。しかしそれでもなお何かを知ろうとして探求してきたのが人類のこれまでの歴史でよく見られたことです。本書は女スパイものという帯文の文句やあとがき から想定したようなストーリー展開とは違う方向に話が進みましたし、謎解きという観点で読むと一体どう言うことなのかと思う所もあります。彼女が一体何者 なのか、そして主人公が終盤にであった彼女は本当に乃緒なのか、「真実」は狸坊主だけが知っている、と言うところでしょうか。

タイトルにつかわれている「離陸」と言う言葉についてですが、終盤で主人公自身の口から語られています。この本を読んだ人の多くが「離陸」というタイトル の意味としては主人公の語るイメージと同じものを考えるでしょうし、そのように読む人が多いと思います。一方、離陸が面白いと感じた理由として「飛行機が 自分のスピードに耐えきれなくなって飛ぶ感じ」といっている主人公の妹の台詞がありましたが、何故このような言葉を途中に挟んだのかが気になります。離陸 するのを見送る側と、実際に離陸する側での違いというとそうでもなさそうな感じもしますし。