まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ミュリエル・スパーク(木村政則訳)「ブロディ先生の青春」河出書房新社

昔々、第2次世界大戦前、イギリスのある女子校にブロディ先生という先生がいました。彼女の展開する授業は勤務先の学校の校風とは随分違うものでした。それゆえに周りの先生からはあまりよく思われず、校長はなんとかして彼女を学校から追い出そうとしています。

そんな彼女が学校で行うのは、いわゆる学校の授業とはかなり違う授業です。演劇や絵画、詩、自分の恋愛、さらにファシズムについての話などなどを行うだけ でなく、時に外に連れ出して美術館や博物館、劇場へ行くこともあるというものでした。そしてそうした授業を一部のお気に入りの生徒、「ブロディ組」の少女 たちに対して行っていました。

性に関する話題で妙にヒートアップするところや、何気ないところに性的なイメージを読んでしまうところなどなど、「ブロディ組」の少女たちも10代の子供 だなあとおもわされるところはいろいろありますが、一流中の一流にしてやるといわれたら、10歳くらいの頃だと舞い上がってしまう子もいるだろうと思いま す。

ある意味「教育熱心」なブロディ先生と、そのお気に入りである「ブロディ組」の関係ですが、10歳からブロディ先生に教わっている彼女たちも徐々に変化し ていきます。昔は彼女たちはブロディ先生の言うことをそのまま信じて従っていた彼女たちも、だんだんと個性があらわれ、それぞれの道を行こうとしている様 子が伺えます。しかしブロディ先生はあくまでも彼女たちを自分の下に置いておこうとするだけでなく、彼女たちの人生を自分の思うようにコントロールしよう とすらしています。「ブロディ組」を選ぶにあたっても、文句を言ってこなさそうな両親の子供を選んでいるところなど、かなり打算的なところもあります。

この話は、時制が頻繁に入れ替わり、話の途中でブロディ先生が「ブロディ組」のだれかの裏切り(先生がファシズムに傾倒していると校長に教えた人がいま す)によって学校を追われたことが明らかになっており、誰がブロディ先生を裏切ったのかということはちょっとしたミステリーのような感じではあります。し かし、そういう面白さだけでなく、ブロディ先生に素直に従うだけだった彼女たちが、先生に敬意は抱きつつも疑問を抱き、自分たちの道を歩んでいくという過 程が、時期をずらして同じ出来事を様々な目でとらえながら書くことで実感しやすくなっているところも面白いと思います。

話の途中でカルヴァンの予定説の話が出てきますが、ブロディ先生も自分が神か何かにでもなったかのような振る舞いをみせています。学校でやっているのは詰 め込みであった教育でないとブロディ先生は批判しますが、生徒たちを自分の思うような役割に押し込めようとする彼女のふるまいもまた「教育」とはいえない ものでしょう。物語のなかでファシズムムッソリーニについての言及が結構出てきますが、ブロディ先生もまたそれと同じ雰囲気を漂わせるようになっていま すね。教師に限らず「先生」と呼ばれる職業についている人は往々にして他人を自分の思うようにコントロールしたい、上に立ちたいとおもい、それが行動や言 動に現れてくることがありますが、そうはならないように気をつけてほしいものです。教員志望の人、実際に今教員をやっている人にこれを読ませたときにどう 反応するのか、見てみたいと思うのは私だけでしょうか。