まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

藤村シシン「古代ギリシャのリアル」実業之日本社

古代ギリシアというと、青い海、青い空をバックにした白亜の大神殿というイメージが非常に強烈にあるかと思います。現在のアテネ市の写真として、青空を背 景にしたパルテノン神殿という構図は確かに印象的ではあります。しかし、そのパルテノン神殿が実は日光東照宮のようなきらびやかな極彩色であったとしたらど うでしょうか?

そして、ギリシア人たちは海を青い物としては表現せず、「ワイン色」として表現していたり、血液について緑色として表現するなど、現代の日本人の感覚では 極めて不思議な色彩の表現をしていました。本書では、このような古代ギリシア人たちのメンタリティ、そして古代ギリシア人たちが信じている神々についてま とめています。

古代ギリシアの神々について説明するとき、最高神ゼウスというとあちこちの女の人に子供を産ませて回った浮気性の神ということがいわれますが、なぜそんな 神が最高神として人々から崇められているのかということが多くの人にとっては疑問だろうとおもいます。また、ギリシア神話の神々についても、バルカン半島 にギリシア人が来る前の神々だったのか、はたまた外来の神々だったのかなどなど、気になる人はいるだろうと思います。

本書を読むと、あちこちで浮気ばっかりしているゼウスがあれほど人気がある理由や、ゼウスに浮気されながらもヘラが非常に強い立場にあり立ち向かうことが できている理由などなど、ギリシア神話の神々の履歴や背景が詳しくかかれています。手軽に取れる本でこういうのがあるとうれいしですね。

そのほか、ギリシア人の労働や時間の観念や愛や死といったテーマが扱われています。個人的に興味深かったのは、ギリシア人の色彩感覚です。「ワイン色の 海」という表現を聞くと、なんでそういう表現なんだろうと思うかもしれませんが、なるほどそういう見方があるだなと素直に納得してしまいましたが、共感覚 みたいな感じもしますね。

ある分野に興味を持つきっかけは人によって様々です。中には著者のように漫画やアニメから入ってくる人もいたりします。そういう形で興味を持った人のなか で、大学の最初の授業で固定観念をひっくり返されるような経験をして興味を持ったとして、そこから先に進もうにも、次の段階がいきなり難しい本になってし まうこともあります。

入り口となるものとその分野の専門的なものの中継ぎをするものがあるといいなあともうのですが、本書は硬軟取り混ぜた読みやすい文章で書かれており、なお かつ著者が古代ギリシアが非常に好きであることが伝わってきます。いろいろな分野の本を読んでいると、ときにはその分野の専門じゃないけれど、とりあえず 書いているのかなと言いたくなる本があります。興味を持ったばかりの人がそういう本にあたるというのは実に不幸な出会いとしか言いようがないのですが、書 いている人が対象に対し愛着・愛情をもっていることが伝わるような本を読むと、もっと読んでみようかなという気になりますね。

アニメや漫画などを入り口とし、そこからさらに一歩踏み込んで古代ギリシアに興味を持ってもらうにはちょうど良い本だと思います。