まずはこの辺は読んでみよう

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ジャウメ1世(尾崎明夫、ビセンテ・バイダル訳)「征服王ジャウメ一世勲功録 レコンキスタ軍記を読む

13世紀のイベリア半島は、レコンキスタが進行し、キリスト教勢力が優位に立つようになった時期であり、実質的にはレコンキスタはこの時点で完結したと考 える人もいます。しかし、当時のイベリア半島において「スペイン」と呼ばれる統一国家は存在せず、カスティーリャアラゴンなどの王国に分かれ、かつてと 比べると衰えたとはいえ、イスラム勢力の国家も存在しているという状況でした。

そんな時代のアラゴン連合王国アラゴンカタルーニャなどからなる国家)の国王にジャウメ1世という人物がいます。彼はバレンシア王国などを征服して領土を拡大した人物ですが、その一方で自伝的な年代記をのこしました。それが本書です。

本書はジャウメ1世の誕生から死までを扱っていますが、その中で、バレンシア王国征服の記録にかなりのページが割かれているほか、ジャウメのもとでの領土 拡大の様子が描かれています。軍事関係の記述に割いたページが多いのですが、意外と軍勢の数が少ないように見えるほか(もちろんそこにカウントされていな い者が多数いるのではないかと言うことは、読んでいると伝わってきますが)、攻城関係の記述がおおく、中世の軍事史に関心がある人は、これを読むと知見を 広げることが出来るのではないでしょうか。

いっぽう、ジャウメが意図的に無視している項目もあるほか(ラングドックを放棄したことなど、自分の評判を落としかねない事柄)、改変したり適当に書いて いる箇所(祖父とビザンツとの縁組みが流れたことなど)がありますが、失敗したことでも十字軍の失敗についてはかなり色々書いています。この辺りから、執 筆動機として十字軍失敗に際して自己の行動を正当化する必要があったためだという説もあります(もう一つの動機としては、当時書かれた年代記に対する反 発・疑問もあるようです。カスティーリャ中心の書き方がジャウメには気にくわなかったとか)。

そのまま本文を読んでも、意外とおもしろく読める本書ですが、解題2つを読んでから改めて読み直す方が、理解がよりいっそう深まると思います。特にジャウ メについて扱った解題2を見ると、本書ではあまり深く扱われていなかった内政面・経済面の話についての解説もあり、非常に有益です。訳文については、読ん でいてそれ程違和感を感じることなく読み通すことが出来ました。古代と比べると中世の書物は翻訳が少ないのですが、このような本がより多くなることで、興 味を抱く人が少しでも増えると良いのですが(そうなると、色々邦訳もでるでしょうし)。