まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

戸崎哲彦「柳宗元」山川出版社(世界史リブレット人)

世界史で古文復興運動、唐宋八大家といったことを習うと、柳宗元の名前は必ず登場します。しかし、それ以外で柳宗元が何をやった人なのかと言われてもよくわからないという人が多いのではないかと思います。

本書は、そんな柳宗元の生涯をたどりながら、彼がどのような思想を抱き、政治改革に取り組みながらも左遷され不遇のときを過ごしたのかをまとめていきます。「中国のルソー」という副題がついていますが、彼の思想は当時としては相当ラディカルなことを言っているように思えます。

彼の思想としては、天人相関説のような考え方を否定することや、さらには官吏公僕論や、社会契約論のような考え方で皇帝の統治を認めていくこと(なんとなくフリードリヒ2世の君主観を思い出す)といったものですが、彼の思想が突然発生的に現れたものではなく、彼に影響を与えたものたちがいたようです。

彼は左遷されて地方で過ごした時期がかなり長いのですが、彼を始めとして王叔文の政権で活躍した官僚たちは左遷の憂き目に遭っています。この時代には様々な背景のもとに生まれた集団が政界には存在しました。例えば科挙の試験官と同期合格者たちが徒党を組むということも見られています。そのほか、貴族や高級官僚の子弟もそれぞれ集団を作っています。しかし柳宗元ら王叔文政権関係者は科挙の同期合格でもなければ名門の家でもなく、王叔文の「理念」に共感して集まり、改革を志したものたちであったという結論を出しています。

柳宗元について、コンパクトにまとまっており、とりあえずどういう人なのか知りたい人はこれを読むといいのではないでしょうか。それにしても唐の時代にまるで啓蒙思想みたいな考え方をする人物がいたとは驚きました。そしてそれが突然変異ではなく、複数の人々に啓発された結果というところにさらに驚かされました。