まずはこの辺は読んでみよう

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山田重郎「ネブカドネザル2世」山川出版社(世界史リブレット人)

バビロニア王国ネブカドネザル2世というと、バビロン捕囚を行った王、「空中庭園(吊庭)」を作った王、そしてダニエル書に書かれ、ブレイクの絵画のもととなった国を追われ荒野をさまよい獣と化した(ただし、後で神に許され復活する)王といった話が伝えられています。

しかし、本書では聖書や西洋古典に登場する「ネブカドネザル」ではなく、年度版文書や碑文などを用いて、歴史上の「ネブカドネザル2世」の姿を可能な限り明らかにしようとしていきます。バビロンのオリエント世界における歴史的位置付けや前史的な内容から始まり、そこから新バビロニア王国の成立までのバビロンの歴史をまずとりあつかい、それからネブカドネザルの話へと移行していきます。

アッシリアに対する反乱指導者ナボポラサルを王に戴く国として新バビロニア王国が建国されますが、彼の息子がネブカドネザルです。王になる前から彼が政治的に活躍していた様子が資料からも伺え、エジプトのファラオ・ネコ(ネコ2世とされる)を撃退したことなどが知られています。活発な軍事活動はネブカドネザルが王となった後も盛んであり、エジプトと度々シリアをめぐり争っていたことがうかがえます。彼の征服活動によって新バビロニアの領土は拡大し、かつてのアッシリアと同等の領土を得ることになったことが史料から描き出されています。さらに、彼の一族のルーツや家族構成などもある程度史料によってわかるところがあるようです。

後半になると、ネブカドネザルの時代のバビロニアの国家制度や官僚組織、そして建築事業や祭儀についてまとめられていきます。ネブカドネザル2世の時代は古代オリエント史のなかで比較的史資料には恵まれているようで、様々な行政文書や法令、建築記念の碑文やバビロンの発掘調査などを利用して王国の組織やバビロンの構造などを描き出しています。行政機構や都市の構造など随所にアッシリア王国の影響が見られるという指摘からは、アッシリアが帝国のアーキタイプであったことがよくわかります。

古代オリエント世界の政治や経済、宗教の中心であったバビロン、そこを支配した新バビロニア王国ネブカドネザル2世について、コンパクトにわかりやすくまとめているとおもいます。