まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

奈良修一「鄭成功」山川出版社(世界史リブレット人)

鄭成功というと、歌舞伎の演目「国姓爺合戦」では彼をモデルにした和藤内が主人公となっていることで知っている人も多いのではないでしょうか。中国人の父 と日本人の母を持ち、東アジアの海の世界で活躍した彼は、流動的な近世アジア海域世界を象徴する人物といっても良いのでないでしょうか。

本書では、まずアジアの海で商業活動が活発化した「交易の時代」に鄭成功の父、鄭芝竜がいかにして台頭してきたのかをまとめていきます。そして鄭成功のも とでの南明諸政権との関係、清との戦い、そして台湾の制圧といった鄭成功の経歴、そして彼以降の鄭氏政権と鄭氏のその後についてまとめています。鄭成功の 台湾攻略、そして施琅の鄭氏台湾攻略について、結構ページを割いて説明しています。

本書はページ数は決しておおくないのですが、鄭成功についての様々なトピックをまとめています。鄭芝竜がそれまでの海商たちと違う点として、明の官僚の庇 護下に入るのでなく、自ら官位と爵位を持つ存在であったことが指摘されています。庇護してくれる官僚の動向に左右された従来の海商と比べ、かなり安定した 地位を確立できていたことが伺えます。また、鄭成功のもとで内陸で交易物資(絹など)を手に入れる商人と、海上交易を担当する商人がそれぞれ組織されてい たこと、鄭成功の息子鄭経の時代に台湾統治の整備が進んだこと、そしてオランダ東インド会社が中国に対しては武力で要求を認めさせようとしていたことな ど、興味深い事柄が多く含まれています。

そのような事柄の中に鄭成功の人物像もうかがえるのですが、忠義にあつい彼が部下に対して厳しすぎたことは後の時代になると色々と厄介の種となって言っ た、特に部下が清に寝返ったという話題がでてきます。実際に作戦行動の失敗をとがめて処刑するという事例や、清に帰参する武将がかなり存在したことなど、 そしてのちに鄭氏台湾を攻略することになる施琅はまさにそのような事情で清朝に降った人物だったといったことから、組織のリーダーとして生きるには少々厳 しい人ではあったかなとも思いますし、そこが彼の限界であるようにも感じました。