まずはこの辺は読んでみよう

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池田美佐子「ナセル」山川出版社(世界史リブレット人)

アラブ民族主義の旗手といってもいい人物ナセル、彼については現代のエジプトでの評価はどうなのかというところから本書はスタートします。その名を冠した 公共施設や道路がまったくないわけではないものの、どうも地味な扱われ方をしていたりする、民衆の間ではなお一定の支持を得ている、しかし失政や負の遺産 を批判するものも多くいるという彼の生涯をたどりながら、エジプトとアラブ世界の足取りをみていくというスタイルです。

本書の構成は、ナセルの誕生から死ぬまでの伝記的な要素を軸にしつつ、彼が生まれた頃のエジプトの状況やエジプトを取り巻く中東情勢、国際情勢についてもふれていきます。

ナセルの権威を著しく損ない、アラブ民族主義を終焉に至らしめることになった第3次中東戦争ですが、元来イスラエルとの戦争に慎重だったナセルがなぜ戦争 への道を歩んだのかについても検討しています。元来帝国主義に対する警戒心が強かったことや、第2次中東戦争のような国際世論の支持への期待のほか、アラ ブ世界の指導者として自他共に認める存在となってしまっていたことが背景にあると指摘しています。

エジプトの帝国主義勢力からの真の独立と公正な社会の実現を実現したという点でナセルについては評価できるところはありますが、いっぽうで彼の政治手法に はかなりポピュリズムのようなところも見られ、人々の支持を背景に権力を握り、逆にそれに縛られるというところは国内政策だけでなく、国外政策(特にアラ ブ民族主義の雄として認知されるようになってからの様々な政策)に現れているように思います。