まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

高畠純夫「古代ギリシアの思想家たち」山川出版社(世界史リブレット人)

古代ギリシアの思想家たちの思想はどのような状況で形成されていったのか。アンティフォンとソクラテスの2人を軸にして、彼らが登場する前の思想家および知の伝え方についてまとめ、さらにアンティフォンとソクラテスの生涯の概略と、かれらの知的活動、そして彼ら以後の思想家達のながれにふれていきます。

現在我々が知る事のできるギリシアの文化というとやはりアテナイのものが中心となっています。しかしアンティフォンが若かった頃はまだアテナイの文化水準は低かったようで、彼はどうやら外国へいって色々学んできたようです。本書では彼は外国において様々な知識を身につけ、それを人々に紹介し驚かせる、現代社会の解説委員や論説委員のような存在であるとともに人々を説得する弁論術の方で活躍していた人物としてまとめられています。

また知識の獲得と言うことについて、ソクラテスについてもまとめていますが、アンティフォンの時代と違いアテナイにいても色々な知識を身につけられたということは大きな違いのようです。このあたりはアテナイの発展にともない、アテナイの知的活動の水準の向上、書籍の出現と言ったことが関係しているようです。わざわざ外に出て行かなくても、様々な知識を身につけられるという状況はアテナイの繁栄とともにもたらされたわけです。

そして、ソクラテスの場合はアンティフォンが人々を説得する弁論術へ進んだのとは異なり、真実を探求し続けるという知的活動に邁進していったこと、そして彼にとりアンティフォンはライバルであったと言うことが描かれています。アンティフォンにとってはソクラテスはそこまで意識する相手だったのか正直なところよく分かりませんが、ソクラテスの考えからするとアンティフォンのような弁論家は“真理の敵”ということなのでしょう。

彼ら二人以降、プラトンアリストテレスといった哲学の流れと、イソクラテスの修辞学の流れがそれぞれ発展していきます。その後のヨーロッパ世界における学問・思想・文化への貢献を考えると紆余曲折を経て伝えられたギリシア文化が果たした役割は非常に大きいのですが、その流れを見たときに、ソクラテスはともかくとしてアンティフォンが意外と重要な位置を占めているということを示そうとしているように感じました。

ソクラテスもアンティフォンもアテナイの社会的・文化的な背景のもとであらわれた人々ですが、彼らが死に到る過程はアテナイの政治状況に強く影響されていたことも示されています。ソクラテスの死についてはよく言われていますが、アンティフォンが寡頭政に関わり、やがてそのことが彼西をもたらしたと言うことは初めて知りました。

本書ではヘレニズム時代については対象外となっています。自治を行うポリスの時代がカイロネイアの戦いで終焉を迎え、それ以後とそれ以前でポリスのあり方も大きき変わったためということでしたが、もう少し後の時代の思想家達についても触れて欲しかったと思います。このあたりの認識については色々と意見がありそうですね。