まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

佐藤彰一「カール大帝 ヨーロッパの父」山川出版社(世界史リブレット人)

カール大帝というと、フランク王国の国王で、ローマ教皇からローマ帝国の皇帝位を授かったことと西ヨーロッパ世界の成立、カロリング・ルネサンス、死後の 王国の分裂、こういったあたりは世界史の教科書レベルでも出てきます。もうちょっと踏み込むと、ヨーロッパ諸勢力(教皇ビザンツランゴバルドあたり) との関係の中でフランクが台頭していったことや、キリスト教国家としてのフランクといったことに触れた本もあったりします。

しかし本書ではヨーロッパという枠を越え、「ユーラシア世界」の歴史の中でフランク王国の発展、カール大帝の時代というものをとらえようとしています。 ページ数は少ないですが、位置づけようとする世界は非常に広い、そんな一冊です。ピレンヌテーゼとは逆の意味で「ムハンマド無くしてシャルルマーニュ無 し」と言えるということも指摘されており、面白く読むことができました。アッバース朝の蓄えた富が交易活動により周辺に流れた、かなり雑に言うと、イスラ ムの繁栄のおこぼれに預かる形でフランク王国が発展したというところでしょうか。

そういう関係もあるのか、フランク王国の社会経済にかんする話に割かれている頁が割合としては類書と比べて多いと思います。カロリング家の結婚について、 門閥どうしの婚姻により所領の結びつきに加え交易網もうみだしたことにふれていますが、カール大帝の祖父カール・マルテルに関しても彼の母親は商業拠点 マーストリヒトの門閥出身であり、カールと言う名前の採用から母親の実家の方面とイングランドとの関係の強さを想定し、さらに北海交易にも結びついたとい う具合に論が展開されていたり、カロリング朝興隆とアッバース朝の繁栄(バグダードやサマラの建設の経済効果の波及がみられたとする)、デーン人との争い について交易活動を巡る問題に言及し、その他には戦争と経済の関係、自然経済ではなく交換経済が活発化していたことが扱われ、また交易についてはフランク 王国からイスラム世界への輸出品は奴隷や刀剣であったことも触れられています。

現在、まだ仮説段階にとどまっているような感じではありますが、この時代に「世界システム」的な物があったという考え方もあるようです。本書はそれを想定 した上でかかれており、単なるヨーロッパ史ではなく、世界史のなかにカール大帝フランク王国を位置づけようとしており、ページ数の割にスケールが大きく 面白い一冊でした。