まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ダシール・ハメット「ガラスの鍵」光文社(古典新訳文庫)

禁酒法時代のアメリカ、とある市の賭博師ボーモントは、友人であり市を裏で牛耳る顔役マドヴィックから上院議員選挙への協力を頼まれます。その時、ボーモ ンドはその話を断るのですが、その後上院議員の息子の遺体を発見、やがてその犯人がマドヴィックであるという疑いがもたれ始めます。そしてボーモントは真 相を探り始めることになるのです。

主人公ボーモントは賭博師という普通に考えたら正義の味方という感じの人ではなく、腕っ節が強いというわけでもなければ、頭もそこそこ切れるが裏をかこう として失敗したり、完全無欠のヒーローというタイプではありません。しかしどんなに打ち据えられて傷をおっても、決して折れることがないというところに かっこよさを感じる人は少なくないでしょう。こういう友人がいるといいなあと思ってしまいますね。

主人公はじめ登場人物が自分語りや内面語りをうだうだとすることなく、客観的な描写が淡々と積み重ねられ、そこから読み手の側が頭を使って、登場人物の心 理については推理していくのがこの手のハードボイルドにはよくあるようです。そのためか、本書でも解説者と訳者でボーモントのあるしぐさ(口ひげを弄る) についての解釈が違っていたりします。ある仕草や振る舞い、顔つきから心情を推測する、それはなかなか難しいことだと思います。実は私はさらさらと読んで しまいましたが、まだまだ修行が足りないなと反省しています。

ハードボイルドというと、なんとなくのイメージとしては腕も立ち頭も切れる一匹狼の探偵が、感情に流されたりせず冷徹に何かを解決していくという感じがし ていました。しかし、本書の主人公は、どっちかというと社会的にはそんな立派な立場ではない賭博師であり、彼の友人は市の顔役(ようはギャングか)、そん な人々が、彼ら独自の論理・倫理観でもって動いている様を描いた話だと感じました。どっちかというとノワール小説のような感じも受けますが、前にノワール 小説で光文社古典新訳文庫ということであえて比較すると、マンシェットと比べると、こちらの方が面白いと思います。

本の感想とは全くないのですが、客観的な描写が淡々と積み重ねられていく、というと、なんとなくドキュメンタリータッチというか、クセノフォン「アナバシス」みたいだなあと思ってしまったのですが、やはり変なのだろうなあ、そういう感想は…。