まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

アレックス・カピュ(浅井昌子訳)「アフリカで一番美しい船」ランダムハウス講談社

第1次世界大戦前の1913年、北ドイツの造船所からリューター、ヴェント、テルマンという3人の技師が、タンガニーカ湖で内陸アフリカでもっとも大きな 船を造るために、ドイツ領東アフリカに派遣されます。正確に言うと、ドイツで造った蒸気船「ゲッツェン」を一度解体してアフリカに持ち込んで組み立て、そ れによってイギリスなどを圧倒しようとドイツ帝国上層部が考えたために派遣されたのでした。

そして、アフリカ到着後、船を造り始めますが、その途中で第1次大戦が始まると、彼らも戦争に巻き込まれていきます。一方、アフリカで勢力拡大を狙うドイ ツに対抗しようとしたイギリスがとった作戦は2隻の小型船を陸路で送り込み、タンガニーカ湖のドイツ艦船を撃破しようというもので、その指揮官を務めたの はお調子者でほら吹きでそれまで左遷状態だった海軍軍人スパイサー・シムソンでした。

基本きまじめ(ちょっと頑固です)なリューター、ヴェント、テルマンのドイツの3人の職人と、ちゃらんぽらんだがきわめてまっとうな神経ももっているイギ リス軍人スパイサー・シムソン、彼らの進む道は戦争勃発とともに思わぬ方向へと向かっていきます。ドイツ人3人はもともと技術者として来たのに戦争が始ま るといつの間にか軍人にされ、上官に対して色々と文句を言いつつも最後まで現地に残り続けています。

一方、スパイサー・シムソンも見栄っ張りで英雄気取りでほら吹き、それでいて公正さももちあわせると言う人物で、いつか英雄的な任務で歴史に名を残そうと 思いつつうまくいかなかったのに、ひょんなことからタンガニーカ湖のドイツ艦船破壊作戦の指揮官となってしまいます。この物語の中で登場する様々な人の中 で、スパイサー・シムソンはきわめて興味深く、魅力的な人物だと思います。

そして、訳者あとがきで彼らの後日談が語られるのですが、このときアフリカに持ち込まれた船がその後も使われ続けたという話を読むと、「現実は小説よりも 奇なり」という言葉を思い出してしまいます。一度沈められた船が、再び引き上げられ、その後もずっと使われ続ける、何か非常に不思議な感じを受けます。