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しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

大野誠「ワットトスティーヴンソン」山川出版社(世界史リブレット人)

産業革命というと、イギリスで綿工業から始まり、やがて様々な分野の発展や交通手段の発展をもたらし、イギリスを「世界の工場」たらしめるに至った出来事として習ってきた人が多いと思います。

その産業革命の最中に見られた技術革新というと、ワットの蒸気機関やスティーヴンソンの蒸気機関車は必ず登場する事柄です。従来の蒸気機関を改良し、使いやすくしたワット、蒸気機関を搭載した鉄道を実際に走らせたスティーヴンソン、どちらの事柄も産業革命の発展には欠かすことのできない事柄です。

本書では、技術者という従来のイギリスではあまり顧みられることのなかったタイプの人々がスマイルズ西国立志編」に取り上げられているというところから話を始め、ワットとスティーヴンソンがどのような業績を残したのか、そしてどのような社会的背景の中で彼らが活動していたのかをコンパクトにまとめています。その合間に技術に関する話も挟まれています。

ワットもスティーヴンソンも社会的に成功を収め、なおかつジョン=ヘイなどのように悲惨な末路を辿らなくて済んだ(ワットの場合は紋章の使用が認められるようになっています)というところは時代の流れが変わってきたということも関係するように思えます。そして、彼らがちょっと独特な存在だと言えるのは、成功してそこから別の階級へのランクアップを狙うというのとはちょっと違う行動を取っているところでしょうか。ジェントルマン層に入ろうと思えば入れるくらいの成功を収めたものの、あえてそれをしなかったのはなぜか、本書ではあまり詳しくは説明していなかったように思いますが、そこのところが気になりました。

生まれや育ちにおいて知的な環境に育ったワットと、そういったものと無縁だったものの経験を積みながら成果を上げたスティーヴンソン、2人の成功は個人の努力や才能、そして彼らの活動を認める社会、それがうまう組み合わさった結果ではないかという気がします。