まずはこの辺は読んでみよう

しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

ユヴァル・ノア・ハラリ(柴田裕之訳)「サピエンス全史(上・下)」河出書房新社

人類進化の歴史を辿るとネアンデルタール人など様々な人類が現れてきた中で、なぜホモ・サピエンスのみが残り、発展し、栄えるように なっていったのか。さらに、人類はどのようにして大規模な集団を維持し、発展することが可能となったのか。そして、科学技術が進歩して いくなかで人類はどのようになっていくのか。

本書は人類の歴史を、「虚構」を物語り、それを用いる能力を身につけた「認知革命」、農耕を行うことにより大規模な社会を維持できる ようになった「農業革命」、様々な集団を支配下におき、領土も柔軟に変更可能な「帝国」の出現、そして無知であることを自覚するところ からはじまった「科学革命」と資本主義、帝国が結びついた時にヨーロッパが世界の中心へと躍り出ていく過程、最後には生命工学などが 発展するなかで人類がどのような道を歩むことになるのかといったことまでをまとめています。全体としては、サピエンスは一つにまとまる 方向で歩んでいる、「グローバル化」しつつあるということが一つの方向性として示されています。

非常にタイムスパンが長く、空間的にも広い人類の歴史を扱っており、個別の事柄については、専門家からは色々と指摘したい点はあるの ではないかと思います。しかし、様々な虚構を用いる能力を身につけたことが人類発展の第一歩であったこと、そして現代に至るまで貨幣 や宗教、政治思想など様々な虚構を信じることで我々の世界が支えられているといった興味深い指摘や、人類の歴史は決して良いことだけ ではなく、地球上の生態系を破壊し多くの生物を絶滅に追いやったのはホモ・サピエンスであること、農業革命は狩猟・採集生活の時代より 人類の生活の質をむしろ低下させた可能性があること、そして進歩や物質的な豊かさと幸福が相関しないことやホモ・サピエンスという種 全体の繁栄と、個々人の幸福もまた必ずしも一致しないことなどの指摘も面白いです。

生命工学やサイボーグ工学の発展が、ホモ・サピエンスという種のあり方にどれほどの影響を与えていくのか、今後はどうなるのかという 点でも興味深い指摘がなされています。人類の歴史の見方、そして人類の行く末について色々と刺激を受けるところも多いと思う一冊です。 一国の国民、一民族、一地域、地球市民といったものではなく、地球上のホモ・サピエンスが地球上で残した足跡を描くという視点で歴史を書こうという試みはなかなか珍しいので、是非読んでみてほしいです。「新しい世界史」を書こうとしている人は日本にもいますが、果たしてこれに匹敵するような刺激的なものがかけるのでしょうか。