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しがない読書感想ブログです。teacupが終了したため移転することと相成りました。

砂野幸稔「ンクルマ」山川出版社(世界史リブレット人)

アフリカ諸国の独立というと、必ず出てくるのがンクルマです。おそらく「エンクルマ」という名前で覚えている方の方が多いと思いますが、最近はンクルマと 表記されることが多くなってきています。ヨーロッパにより植民地化されていたアフリカにおいて、ンクルマはいちはやくガーナの独立を達成し、さらにアフリ カ全体の解放へと進もうとするも、国内で軍部のクーデタにあい失脚した、という事績については知っている人もいるかもしれません。本書ではそんなンクルマ の姿を通し、アフリカにおける脱植民地化、アフリカという地域の統合のうごきについて、コンパクトにまとめています。

ナショナリストとして目覚めるまでの過程でンクルマは同時代人と比べ様々な幸運にも恵まれていたように思えます。まず、母親が商人として自活しながらンク ルマを育て、彼女自身がキリスト教徒となっていたことから息子をキリスト教伝道団が営む学校に入れて初等教育を受けさせていたこと、アフリカ人エリート育 成のため高等教育機関設置に取り組んだ植民地行政官がいたこと(イギリスは伝統的首長を通じた間接統治が基本的姿勢。教育を受けた植民地人を危険と見なす 行政官が多かった)、そしてアフリカ人エリートの間でナショナリズムが高まってきていた時期であったことなど、彼個人の資質が発揮される上で、これらのこ とは無視できないでしょう。

やがて、ンクルマはアフリカ人の地位向上やパン・アフリカニズムが高揚するアメリカ合衆国へと渡ります。ここで苦学生として学業に励みながら、アフリカの 文化や植民地からの独立などを議論し、さらにアフリカをあるていどまとめて独立させようという「アフリカ合衆国」につながる発想も抱きはじめ、活動家への 道を歩み始めます。一方、後のンクルマの国家運営に深く影響を与える共産主義にも触れたのはこのアメリカ滞在時でした。アメリカにおけるアフリカ系の人々 による様々な運動についてはあまり知らなかったため、ハーレム・ルネサンスのような運動があったことは興味深かったです。

そして、ンクルマによる独立運動が展開されるのは第2次大戦後ですが、第2次大戦後のガーナ独立に到る過程も当然それなりに頁を割いていきます。独立運動 の中でンクルマが主導権を握る過程、その際に、後に問題になる要素(地域・民族間の対立、経済的利権と腐敗、ンクルマ個人への支持、予防拘禁など独裁へ向 かいかねない要素)と言った問題にも触れています。このあたりの経緯をほとんど触れることなく、アフリカ諸国の独立の達成について話をすることが多いので すが、勉強になりました。

さらに、アフリカ諸国が独立を達成していく中でパン・アフリカニズム、アフリカ合衆国建設へと突き進もうと考えるンクルマと彼と路線を異にする諸国の反 応、コンゴ動乱の背後に欧米の新植民地主義があると考えたンクルマが社会主義路線へと舵を切っていく様子、国内で強権を振るうようになるンクルマと暗殺の 陰謀、そしてクーデタによる失脚、彼が残した物を最後に扱っていきます。ンクルマの考えたパン・アフリカニズムの考え方は後にアフリカ連合AU)の原点 となっていきますが、一方でンクルマの考えに周囲はついてきていないことや、さらに強権的な手法に対する不信や敵意といったものを軽く考えいたふしがある という、指導者としてはかなり致命的な弱点があったことも明白に示されています。

ンクルマを通して、アフリカの脱植民地化の時代について考えるという本書の目的はおおむね達成されているようにも思います。個人的には、それ以上に指導者 のあり方について考えさせられるところがある一冊でした。ンクルマの生涯、特に後半生をみると、自分の支持者がなにゆえに自分についてきているのか、そこ の所の分析に誤りがあるとき、指導者の末路はかくも惨めなものになるということをよく考えた方が良いのではないかと思います。自分は常に正しく、周りが悪 いのだという思考に陥らぬようにすることが重要かと。